新海監督と東宝の関わりは前作の『言の葉の庭』からだが、『君の名は。』は公開も300館で、前作に比べると東宝としても大きな取り組みをしたといえる。

 「前作の『言の葉の庭』は公開館数も少なく、興収1億5000万でしたが、東宝の映画企画部の川村元気プロデューサーが企画を進めていき、『次はもうちょっと大きくやりましょう。10倍は行かせないと』 『じゃあ、15億を目指そうか』と話していたんです。それまで関わっていた映像事業部だけでなく、公開規模の大きい作品を手掛ける映画営業部が配給を担当しました」(市川取締役)

 前作の10倍という、当時としては大きな目標を掲げたものの、実際にはさらにその10倍以上の興収になったわけだ。その背景には劇場アニメをめぐる環境の変化があった。

 「アニメ映画の客層が広がったというのは昨年指摘されましたが、実は以前からそうだったのが顕在化したということかもしれません。考えてみればジブリアニメは全世代が永年観てきた訳ですから、今のシニア層はアニメと実写を区別なく楽しむ時代になっているわけなんですね」(同)

 劇場アニメが活況を呈しているというのは、そのほか『ドラえもん』や『名探偵コナン』が興収記録を塗り替えていることでもわかる。

 「自分が子どもの頃に観たものに親になってもう一回、子どもを連れて行っている、二世代目に入っている、ということでしょうね。それと『名探偵コナン』などは中高生で来ていた人が大人になっても卒業せずに、ずっと観に来てくださっている。そういう現象が起きているんです。そういうファミリー向けのアニメだけでなく、アニプレックス配給の『ソードアート・オンライン』なども2月に公開して興収20億を超えるヒットです。もうマニア向けアニメとは言えないでしょうね。洋画のアニメについても、3月公開の『モアナと伝説の海』『SING/シング』も大ヒットしています。『アナと雪の女王』をピークに、子ども向けというよりデートで行く映画になっています。アニメを見る層がそれだけ拡大しつつあるというのは世界的傾向のようですね」(同)

 アニメにとって追い風なのは、日本のアニメが海外でも定評があり、大きなビジネスになりつつあることだ。『君の名は。』も海外展開が成功したという。
「海外でも126カ国に配給しました。公開した日本を含むアジアの6カ国でそれぞれ興収1位を記録しています。中国、韓国、台湾などですね」(同)

 昨年異例の大ヒットとなったもうひとつの劇場アニメが『この世界の片隅に』だ。『君の名は。』の興収には及ばないが、もともと3億を目標としていたら10億を超えるヒットとなった。アニメで戦争をテーマに掲げるという、それまではヒットするとは思われていなかった常識を覆したという点で特筆すべきケースといえる。
Ⓒこうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
Ⓒこうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
 真木太郎プロデューサーの話を紹介しよう。

 「映画は昨年9月に完成して11月公開でしたが、テアトル新宿は連日立ち見で『入れない』と評判になりました。SNSでのつぶやきが爆発的になって、どんどん口コミが広まっていく。今年1月7日時点で公開は200館近くになっており、300館を超える勢いでした」