青林堂社長にこれだけは言いたい 「パワハラに右も左も関係ない」

『佐々木亮』

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佐々木亮(弁護士)

 今回、青林堂が社員に悪質なパワハラを行った件で編集部より原稿の執筆を依頼された。それは、青林堂の社長にオピニオンサイト「iRONNA」から寄稿を依頼したので反対意見も載せたい、とのことであった。ただ、iRONNAは産経新聞系列企業の運営するサイトである。そして、近年の青林堂は、「ネット右翼」と呼ばれる人々に非常に好かれている企業であるところ、産経新聞もまた「ネット右翼」に非常に好かれている新聞である。

 現に、青林堂は、産経新聞に広告を出したことを喜々としてツイッターに投稿しており、そうしたビジネスの関係も青林堂と産経新聞の間にはあるのである。そうなると、iRONNAは青林堂にとっていわば「ホームグラウンド」のような場であり、他方で私自身は思想的にも政治的にも、近年の青林堂の出版物を読むような方々とは真逆にいるので、産経新聞系列企業が運営するサイトにおいては「完全アウェイ」となってしまうのである。

 こうしたこともあって、いろいろと考えるところはあったけれども、パワハラを撲滅するためには青林堂の見解だけを垂れ流しにするのは良くないだろうと思い、アウェイではあるけれども寄稿することにした。

 しかし、既報の通り、本件は訴訟になっている案件で、かつ、私自身が同社員の代理人をしているところでもある。したがって、本紛争の具体的な内容についてはここでは書かないことにする。もっとも、青林堂社長の投稿内容が、事実に反していたり、社員や所属労組の名誉を傷つけたりしている場合は、別のところで反論をさせていただくし、裁判における請求の拡張に利用させていただくこともあるかもしれないので、その旨はあらかじめ述べておく。
出版社「青林堂」でパワハラを受けたと東京地裁に提訴した男性社員(中)。右は佐々木亮弁護士=2月13日、東京都千代田区
 以下、青林堂事件にも触れつつ、パワハラの現状や労働者・使用者の取るべき対応、そして政策としてどのような対策がとられるべきかに言及したい。

 青林堂パワハラ事件は、そのハラスメント内容のひどさに加え、録音という客観的な証拠があり、それがあまりに生々しいことから、多くのメディアにおいて取り上げられることとなった。
パワハラに右翼も左翼も関係ない

 青林堂は、これは左翼の陰謀であるなどと言っているようであるが、最初に言っておきたいことは「パワハラに右翼も左翼も関係ない」ということである。もちろん、青林堂からみた「左翼団体」においてもパワハラは存在する。私はその場合でも、特に躊躇(ちゅうちょ)することなく、被害者となった労働者の権利擁護をしたいと考えているし、実際にしてきた実績がある。

 したがって、本件は、青林堂が過去にどんな出版物を出していようが、はっきり言って関係のないことである。青林堂はツイッターなどを使って、盛んに「サヨクが」「サヨクが」と言っているようであるが、心の底から、「それは関係ないんだよ」と優しく教えてあげたい気分である。

 おそらく青林堂は、自分たちのした陰湿なハラスメントが白日の下にさらされ、批判が集中したことを回避するために、単なるパワハラを「右翼」「左翼」の問題につなげたいのであろう。

 そうすることで、味方を得ることができるからだ。しかし、録音に示されるとおり、客観的な記録があり、発言内容自体は動きようがない。もし「右翼の社長なら、左翼だと思った社員に対し、パワハラをしても何の責任も生じない」とでも思っているのだとしたら、それは誤りである。

 一口にパワハラと言っても、多くの種類がある。次の分類は、厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」が、平成24年3月15日に公表した「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」における分類である。ここでは6類型に分類している。

① 暴行・傷害(身体的な攻撃)

② 脅迫・名誉毀損(きそん)・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)

③ 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)

④ 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)

⑤ 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)

⑥ 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

 こうした行為はいずれもパワハラとして企業や行為者が損害賠償請求を受けるリスクのある行為となる。通常の企業では、こうした行為をすることのないように社員を教育・指導するのが一般であるが、中小企業などでは、社長が先頭に立ってこれらを実行してしまう企業も少なくない。青林堂事件では、特に②がクローズアップされていることは周知のとおりである。
労働相談のダントツ1位は

 そもそもパワハラの問題は、青林堂事件だけの問題ではない。実は昨今、労働問題を扱う業界で深刻なのは「いじめ・嫌がらせ」事案の増大である。

 たとえば、厚生労働省が毎年6月ごろに公表している全国労働局に寄せられる労働相談では、平成24年度以降「いじめ・嫌がらせ」が1位となっている。平成27年度は、約6万6千件の相談があり、2位の解雇(約3万8千件)に大きく水をあけてダントツである。

 相談に行くということは、それだけでハードルがあるのだが、それを差し引いても約6万6千件であるから、この裏にはどれだけ多くの労働者がハラスメントに苦しんでいるかが分かると思う。

 こうした状況を踏まえ、厚生労働省は平成23年、先の分類の提言をした「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」を開き、パワハラの定義や対応について専門家の意見を聴取するなどした。残念ながら、この会議は、提言・報告を出すにとどまり、立法などの動きにつながることはなかった。

 現在の安倍政権も、パワハラ問題を無視することはできず、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日閣議決定)には、「職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」として、何らかの対策の検討を行うことを記している。

 なお、政策として必要なのは、「パワハラ防止基本法」のような法律を制定して、腰を据えた対策が行われることであろう。そうでなければ、この問題は「当事者同士の問題」として矮小(わいしょう)化されかねない。しかし、セクハラなどと同じように、基本的にパワハラは違法であるとする明確な法規範があれば、企業の取り組みは変わってくるものである。

 いずれにせよ、パワハラは社会問題となっており、国の政策として何か対策をとらねばならないところまで深刻化しているのである。

 では、労働者はこうした時代にどうやって自分の身を守ればいいのだろうか。

(本文とは関係ありません)
 青林堂事件のように、暴言などのパワハラを受けた場合、まずは証拠を確保することが何よりも大事である。その際、録音が客観的な証拠として価値が高い。青林堂事件では、パワハラが日常化していたために、多くの録音記録が存在している。

 あまりに多くて、訴えの提起にあたり選別するのが非常に大変であった。そのため、普通なら問題とすべき発言が、他のひどい発言に比べてレベルが低いと、「これは大したことないね」となってしまって、感覚がまひしてしまったほどである。

 なお、対話者に無断で録音することが違法であるかのような誤解があるが、そんなことはない。職場におけるトラブルがある場合に、証拠保全の意味で録音することは問題ない。むしろ、労働者が取りうる唯一の証拠収集における対抗手段といっても過言ではない。
気にせず「録音」を

 裁判例でも、録音手段・方法が著しく反社会的ではない限り、これを証拠として認める旨判示している(東京高裁昭和52年7月15日判決)。最近の裁判例でも否定例は極めて例外的な場合のものしかないので、被害を受けている場合は、気にすることなく録音することが必要である。

 一方、使用者側に期待されるのは、職場におけるいじめ・嫌がらせは、企業経営にとってマイナスしかないことを自覚することである。

 そもそも、そのような問題が発生していること自体恥ずかしいことだという認識を持ってもらいたい。先に挙げた円卓会議において、ある企業の人事担当者の言葉として、次のようなものがある。

 全ての社員が家に帰れば自慢の娘であり、息子であり、尊敬されるべきお父さんであり、お母さんだ。そんな人たちを職場のハラスメントなんかでうつに至らしめたり苦しめたりしていいわけがないだろう。

 誰かをいじめてうつにすることは、その背景に多くの悲しみが生まれることを自覚することが必要である。社員は人間であり、ロボットではない。ましてや機械でも道具でもない。その当たり前を自覚することが第一歩である。相手は自分と同じ生身の人間なのである。

 近年は、まともな企業や労働組合が機能している企業においては、こうした意識が徐々に高まり、パワハラになり得る行為類型を冊子やパンフレットなどにして全社員に配布し、啓蒙(けいもう)している企業もある。

 本来は、こうした取り組みが一般化される必要があるだろう。一方で、社長が先頭に立ってパワハラするような企業は論外である。これについては、一つ一つ正していくほかない。

(本文とは関係ありません)
 青林堂事件は、ハラスメントの陰湿さと、それを支える証拠が多くあることでたくさんの注目を集めた。しかし、俯瞰(ふかん)的に見れば、これはわが国にはびこるパワハラ事件の一つに過ぎないのである。もっとも、一つに過ぎないとしても、これだけ注目が集まった事件である。青林堂には、パワハラを行ったことについて、しっかり責任を取っていただきたい。

 また、労働者はこうした時代であるので、身を守る術を身につけ、何かあれば第三者に相談してほしい。一人で抱えても解決しない。労働組合や公的機関など、相談窓口は多い。

 そして、国は「働き方改革実行計画」に記載したのだから、「啓発」「啓蒙」だけで終わることのない政策を実行してほしい。これについては与野党一丸となれるのではないだろうか。パワハラを撲滅するのに右も左も関係ないのだから。

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