畑中美樹 (国際開発センター エネルギー・環境室研究顧問)


 イラクとシリアにまたがる国家樹立を宣言したイスラム国(IS)の終焉(しゅうえん)が近づいている。既にIS戦闘員がイラクのモスル西部の旧市街及び彼らが首都とするシリアのラッカにほぼ追い込まれているからだ。

 だが欧米やトルコ、ヨルダン、クウェートなど中東諸国のイスラム過激組織の専門家は、新たな危機を懸念している。すなわち、組織としてのISは疑似国家の消滅で解体しても、地下に潜り母国に戻るIS戦闘員や彼らのイデオロギーが拡散し、各地で新たなテロを引き起こす可能性が高いからだ。このため、英仏独などの欧州諸国やロシアの治安専門家は、自国出身のIS戦闘員の帰国に目を光らせつつ、IS思想への共鳴者の監視を強化している。
イラク北部のモスルで、ISとの戦闘に備えて武器を運ぶイラク軍
イラク北部のモスルで、ISとの戦闘に備えて武器を運ぶイラク軍
 実際、これら諸国では3月以降、IS共鳴者によると見られるテロ事件が続発している。犯人を含む5人が死亡し約40人が負傷した英国会議事堂近くでの四輪駆動による殺傷事件(3月22日)、11人が死亡し45人が負傷したロシア・サンクトペテルブルクの地下鉄車内での爆発事件(4月3日)、4人が死亡し15人が負傷したスウェーデンでのトラック暴走事件(4月7日)、警察官1人が死亡し2人が負傷した仏・シャンゼリゼ通りでの銃撃事件(4月20日)などがそれに当たる。

 英国の事件では、ロンドン警視庁はIS共鳴犯が、ニースやベルリンでの車を使ったISの民間人攻撃手法を模倣したと見ているし、スウェーデンの事件では、容疑者がフェイスブックで何人かの過激主義者とリンクしていたことが明らかになっている。

 さらに、髭を生やしイスラム教の聖典コーランを読んでいたロシア事件の容疑者が、IS関係者のシリア入出国の経路トルコに2015年11月に入り翌年12月に国外追放処分となったことも分かっている。そして、フランスの事件の容疑者のポケットから落ちたメモには、ISを擁護する内容が記されていた。

 ISによると見られるテロは中東でも頻発している。シリア、イラクと国境を接するヨルダンの南部カラクでは昨年12月18日、武装集団がパトロール中の警察官に発砲後、立てこもる事件が発生して10人が死亡し34人が負傷している。また、イラクと長い国境を接するクウェートでは4月26日、逮捕されたIS要員が米軍施設やシーア派宗教施設などへのテロ攻撃を計画していたことが判明している。

 今後、ISの壊滅を目指したイラク・モスル西部やシリア・ラッカへの総攻撃が行われることは必至である。そうなった場合、反発するIS要員やIS同調者による欧州・中東主要国でのテロ攻撃の可能性は一層高まる。これら諸国への出張や旅行に際しては、最新の治安情勢に関する事前情報の徹底的な収集が必要になってこよう。