松浦民恵(ニッセイ基礎研究所 生活研究部主任研究員) 

 派遣法改正案 は2014年春の通常国会(第186回国会)に提出されたものの、条文のなかの誤りが問題になり、審議にも入らないまま廃案となった。その後誤りが修正され、2014年秋の臨時国会(第187回国会)に再提出されたものの、主に手続きや運営上の問題によって審議が滞っていた途上で、11月21日の衆議院解散に伴って、またしても廃案となった。

 ただ、それ以上に心配なのは、今回の派遣法改正案の内容が、社会的にどの程度理解されているかという点である。派遣社員が雇用者(役員除く)の2.2%、非正社員の6.1%に過ぎないなかで、そもそも現行の派遣制度についても、理解できている人は限定的である懸念が大きい。 前回2012年10月に施行された改正派遣法も、最初の法案提出から、政権交代をまたいで3年以上にわたる迷走の末に成立した経緯があるが、今回の派遣法改正案も、政治的な事情によって廃案と出し直しが繰り返される事態になっている印象を受ける。

 そこで本稿では、今回の派遣法改正案のポイントと、なぜこのような改正案が出てきたのかという背景について、解説することとしたい。



1.派遣の期間制限の主な基準が、「派遣先の正社員の雇用を浸食しない業務かどうか」から「派遣社員が無期雇用かどうか」に変更される


 現行の派遣規制においては、政令で定められている26業務については、同一の派遣先への派遣に関する期間制限がなく、それ以外のいわゆる自由化業務については原則1年、最長3年の期間制限が設定されている。

 なお、自由化業務についても、同一の派遣先への派遣に期間制限が設けられているだけで、別の派遣先で派遣として働き続けることは制限されていない。 

 従来から、業務区分の境界が法律や政令だけでははっきりせず、行政当局の解釈によって判断が変わってくる面があることが指摘されていた。民主党等の連立政権下において公表された「専門26業務派遣適正化プラン」(2010年2月)や「専門26業務に関する疑義応答集」(同年5月)で、政令26業務に関して従前には明示されていなかった新しい解釈(より専門的な業務内容に限定した解釈等)が示されたことで、この問題が決定的に露呈した。これらに伴う行政指導により、政令26業務としての派遣が、自由化業務として期間制限の適用を受けることとなり、少なからぬ派遣社員の働き方が変更された(直接雇用の非正社員への変更、もしくは正社員への変更、就業機会の喪失等) 。政令26業務への従事者が派遣社員に占める割合は、専門26業務派遣適正化プランが公表される前の2009年6月では6割弱、直近の2013年6月では4割強となっている 。

 このようななか、2012年10月に施行された改正派遣法には、業務区分による期間制限をわかりやすい制度にすることを含む8つの附帯決議が付され、施行と同じ月に、厚生労働省が主催する「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」において、派遣法再改正の検討がスタートした。この研究会や労働政策審議会での検討を経て、今回の派遣法改正案では、業務区分が撤廃されようとしている。

 具体的には、業務にかかわらず、派遣元と派遣社員の雇用契約が有期の場合は、同一の派遣先について3年の期間制限がかかる(政令26業務については、これまで期間制限がなかったので、この部分は規制強化)。一方、業務にかかわらず、雇用契約が無期の場合は期間制限がなくなる(自由化業務については、これまで無期雇用でも期間制限があったので、この部分は規制緩和)。

 つまり、期間制限なく派遣が認められる論拠が、これまでは派遣先の正社員の雇用を侵食しない、専門的あるいは特別の雇用管理が必要な業務(政令26業務)であることであったが、改正案では、派遣元に無期で雇用されている(派遣社員が相対的に保護されていると解釈される)ことが、期間制限なく派遣が認められる論拠となっている。


2.派遣期間のカウントの仕方が、派遣「受入」期間から、派遣社員個人単位の期間と派遣「受入」期間の2本建てに変更される


 これまでの期間制限は、派遣「受入」期間に対して設けられていた。つまり、派遣先の同じ自由化業務で、最初に派遣された労働者が既に1年働いていれば、次に派遣された労働者は2年しか働けない(通算で3年上限)。これは、その業務で継続的に派遣社員を受け入れることによって、その業務が派遣社員の業務として位置付けられる(派遣先の正社員の業務を縮小させ、さらには派遣先の正社員の雇用を脅かす)ことを防ぐための規制だといえる。

 今回の改正案では、派遣社員本人が自身の派遣期間の上限を明確に理解できる、派遣社員個人単位の期間(3年上限)という考え方が新しく打ち出された。一方で、派遣「受入」期間に関する制限(原則3年)も存置されるが、こちらについては過半数労働組合等からの意見聴取を条件として延長可能とされている(この部分は規制緩和)。

 つまり、派遣先の正社員の雇用を守るという面からの規制が緩和される一方で、派遣社員の働きやすさの改善や就業機会の向上が図られている。


3.届出制が廃止され、全ての派遣事業が許可制になる



 現在、派遣事業には一般労働者派遣事業と特定労働者派遣事業の2種類がある。一般労働者派遣事業には登録型派遣や日雇い派遣が含まれる。これらの派遣は、派遣先が決まったところで派遣会社との雇用契約が発生することから、一般労働者派遣事業については事業認可に対してより厳しい規制が適用される許可制となっている。一方、特定労働者派遣事業は、派遣元事業者に「常時雇用される労働者」を対象とする派遣であることから、規制が比較的緩やかで、事業認可は届出制となっている。

 近年、この特定労働者派遣事業が顕著に拡大し、2013年6月時点では、特定労働者派遣事業の事業所数が56,366ヶ所と、「一般」(18,002ヶ所)の3.1倍にまでなっている 。もともと、特定労働者派遣事業の「常時雇用される労働者」には、無期雇用だけではなく、有期雇用で「過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者又は採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者」 も含まれる。2008年のリーマンショック以降、登録型派遣等に対する規制強化の気運が高まるなかで、要件が厳しく審査もある「一般」から、届出だけの「特定」へと少なからぬ派遣元事業者が安易に流れる傾向が指摘されていた 。

 今回の改正案は、こうした現状を改善し、派遣元事業者の適正化を進めることを狙いとして、特定労働者派遣事業の届出制を廃止し、全ての派遣事業を許可制にしようとしている(この部分は規制強化)。


4.派遣社員の雇用安定化やキャリア形成支援等に対する、派遣元の義務が強化される


 従来から、派遣という働き方は、正社員に比べれば不安定であり、処遇の向上につながるキャリア形成という面でも十分な支援が受けられていないという課題が指摘されていた。

 このようななか、今回の改正案では、雇用の安定化やキャリア形成支援(段階的かつ体系的な教育訓練等)等に対して、派遣元の義務が強化されている(この部分は規制強化)。

 雇用の安定化については、これまでも派遣元の「努力義務」として部分的に規定されていたが、今回の改正案では、派遣期間の上限を迎える派遣社員に関する雇用の安定化のための取組は、派遣元の「義務」とされる。キャリア形成支援についても、これまで部分的に「努力義務」として規定されていたが、今回の改正案では派遣元の「義務」とされ、その内容も従来よりも強化されている。

 このように、今回の派遣法改正案は、派遣規制の緩和か強化というような単純な色分けできない、緩和と強化が拮抗した内容となっている。むしろ、派遣というシステムをめぐる課題(業務区分による規制のわかりにくさ、派遣社員に対する支援が不十分な派遣事業者の存在等)を解決することを通じて、派遣という働き方を改善することが意図されているようにみえる。一方で、今回の改正案は、長年続いてきた業務区分による規制を、雇用期間による規制に変更しようとする重要な改正であり、キャリア形成や雇用確保の面での支援は前進するものの、発展途上な面があることも否めない。

 2015年春の通常国会(第188回国会)には、おそらく今回の派遣法改正案が何らかの形で再々提出されることになると予想される。派遣法改正案に関する理解が広がっていくうえで、また、派遣社員の実質的な保護に向けた、より建設的な議論が展開されるために、本稿が少しでもお役に立てば幸いである。

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1 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案。

2 「附則第6条第6項」の「特定労働者派遣事業に関する経過措置」の部分で、「(前略)一年以上の懲役又は百万円以下の罰金に処する」の「一年以上」が誤りで、「一年以下」が正しい。

3 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律。

4 2008年11月に、第170回国会に提出された自民党・公明党政権による派遣法改正法案を指す。

5 総務省「労働力調査(詳細集計)」(2013年)より。

6 専門26業務派遣適正化プランの影響については、小林徹(2014)「労働者派遣専門26業務適正化プランの影響-派遣元・派遣先・派遣労働者の変化」佐藤博樹・大木栄一編『人材サービス産業の新しい役割-就業機会とキャリアの質向上のために』(有斐閣)が詳しい。

7 厚生労働省「労働者派遣事業報告」より算定。

8 具体的には、「いわゆる専門26業務に該当するかどうかによって派遣期間の取扱いが大きく変わる現行制度について、派遣労働者や派遣元・派遣先事業主に分かりやすい制度となるよう、速やかに見直しの検討を開始すること。検討の結論が出るまでの間、期間制限違反の指導監督については、労働契約申込みみなし制度が創設されること等も踏まえ、丁寧・適切に、必要な限度においてのみ実施するよう徹底すること。また、労働契約申込みみなし規定の適用に当たっては、事業主及び労働者に対し、期間制限違反に該当するかどうか等の助言を丁寧に行うこと」(2011年12月7日衆議院厚生労働委員会、2012年3月27日参議院厚生労働委員会)とある。

9 厚生労働省「労働者派遣事業報告」より。

10 厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」より

11 アドバンスニュース記事「<特別寄稿>出井智将さんの「現場感覚で考える改正派遣法」④派遣事業所数が「ワニの口」化」(2012年10月3日)が詳しい。