小泉悠 (財団法人未来工学研究所客員研究員)

 米国の連邦最高裁が全州で同性婚の合法化を認めたことは、世界中に大きな衝撃を与えた。

 こうした中で対応に苦慮しているのがロシア政府である。
 もともとロシア社会には同性愛に対する嫌悪感が強く、ソ連時代には同性愛は刑法典で「犯罪」と位置づけられていた(1993年に同性愛を犯罪とする条項は削除)。現在でもロシア社会では「同性愛者はHIVの元凶だ」あるいは「刑務所帰りのごろつきだ」といった偏見も根深く、なかでもモスクワ市のルシコフ前市長はゲイプライドマーチ(同性愛者の権利を訴えるデモ行進)を「悪魔の所行」と呼んだことでも知られる。
※写真はイメージ
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 こうした社会の保守的な見方に同調する形で、ロシアではサンクトペテルブルグ市、モスクワ市といった有力自治体が「非伝統的な性的関係のプロパガンダ」を禁止する条例を相次いで制定し、2013年には連邦法として全土に適用範囲が広がった。

 同性愛を含む「非伝統的な性的関係」を喧伝することが児童の精神的発達に悪影響を与えるというのが表向きの理由であるが、実態としてはホモフォビア(同性愛嫌悪)の根強い社会の保守層にアピールする方策という側面が強いと思われる。

 しかし、西側先進諸国では同性愛者の権利は着実に認められつつあり、冒頭で述べた米国の連邦最高裁判決はロシアでも大きな注目を集めている。

 こうしたなかで、ロシア上院の有力議員から、一種の折衷案を導入することが提案され、注目を集めている。以下、インターファックス通信が報じた内容をご紹介したい。

 (翻訳)

 「性的少数者に関して「問うな、語るな」原則を導入することをドブルィニン上院議員が提案」『インターファックス』2015年6月28日

 上院憲法・法制委員会のコンスタンティン・ドブルィニン副委員長は、性的少数者に関して米国の「問うな、語るな」原則を法制化することを示唆した。

 「アメリカやヨーロッパの寛容主義を好きなだけ笑うことはできる。だが、この世界はグローバルであり、遅かれ早かれ、マイノリティが現在持っていない平等な権利を持つのはもはや時間の問題であることは認めざるを得ない」ドブルィニンはこのようにインターファックスに語った。

 「ロシアにおいては、現実に背を向けないこと、そして旧来の野蛮な同性愛嫌悪に肩入れすることなく、社会の保守層とその他の全ての層とのバランスを保てるような法的形態を見つけることが重要である。そのようにしてみると、「問うな、語るな」は我が国において攻撃性を伴うこと無く機能しうる最適の図式となりうる」

 同人の見方では、これを法制化することは可能である。

 「最も重要なことは、マイノリティに対する攻撃を減じることだ。なぜなら、彼らと戦う人々、彼らの野蛮な攻撃はさらなる反動を招くからである。より多くの同性愛嫌悪主義者はより多くの同性愛権利活動家に、より厳しい迫害はそれに対するより強い擁護運動につながる」とドブルィニン氏は述べた。

 同人によれば、ロシアがいかなる方向を取るかは未来だけが決めることができるのであり、同性婚を合法化した以前のG8諸国のパートナーと現在のBRICsのパートナーのいずれが正しかったかは時間が教えてくれる。

 「しかし、同性愛嫌悪について考えを巡らせ、法的に違法行為すれすれのことやっている政治家もどきの人々は、なるべく早く、よりよい形で政治の舞台と我々の生活から排除されねばならない。ロシアの安全保障に明白な脅威を与えており、政府が戦わねばならない相手は、ゲイの人々ではなく彼らなのである」

 同議員はまた、サンクトペテルブルグ議会の議員で、Facebookをロシアで遮断するよう求めているヴィタリー・ミローノフ議員についてもコメントした。ミローノフ議員によれば、Facebookの運営当局はユーザーのアイコンをLGBTのレインボーカラーにできる機能を提供することでロシア連邦の方に明確に違反していると主張している。


 ドブルィニン議員の発言で注目されるのは、同性愛者の権利が認められるのは世界的な潮流であって、そこから目を背けてはならない、という基本認識であろう。
この意味では同議員の発言はこれまでになくリベラルなものとも取れる。