荻原博子(経済ジャーナリスト)


 衆議院選挙がスタートしました。この暮れの忙しい時に、640億円もの大金を使って、なぜ選挙をしなくてはならないのか、さっぱりわからないという人が多いようです。

 安倍首相は、消費増税先送りの是非を問う選挙だと言いますが、野党をはじめ一般の人も、こんなに景気が悪いのだから消費増税を先送りするのは当たり前だと思っている。それなのに、是非を問う必要などありません。

 しいていうなら、経済状況がどんどん悪化している中で、約2年続けてきた「アベノミクス」を、このまま続けても良いのかどうかということなのでしょう。

 4~6月期に続いて7~9月期もGDPがマイナスになりました。GDPが2カ月連続でマイナスということは、景気後退(リセッション)に入ったということで、海外からは「日本の景気は急速に悪化している」と見られています。そのせいで、円が売られ、ここにきて円安が急激に進んでいます。

 「アベノミクス」では、“円安政策”を掲げ、円安で輸出を増やして経済を潤すと言っていましたが、結果は、輸出が伸びず、輸入コストが上がるという惨憺たる状況になってしまいました。

円安でも、儲けのトリクルダウンは起きなかった


 円安になると、輸出が伸びると言われていましたが、自動車工業会公表の4輪車の輸出台数を対前年比で見ると、1月マイナス4・9%、2月マイナス6%、3月マイナス0・6%、4月マイナス5・4%、5月マイナス9・6%、6月マイナス4%と惨憺たる状況。7月はかろうじてプラスになりましたが、それでも0・1%。さらに8月マイナス8・6%、9月マイナス3・3%。つまり、昨年は100台売れていた4輪車が、今年は円安が進んだにも関わらず95台に減ってしまったということ。確かに、トヨタなど輸出大手は100万円だった車が円安で120円で売れるので、為替で大儲けしています。けれど下請け企業は、輸出される車の台数が減っているのですから、仕事が減っているということ。儲かるどころか、値上がりした原材料を使わなくてはならないので、苦しくなっている。つまり、輸出大手が儲かれば、儲けが下請けに滴り落ちて行くというトリクルダウン理論は、完全に破綻しているということです。 

家計に迫る、円安の津波

 
 こうした中で、実質賃金は15カ月連続で下がっています。

 なぜ、企業が賃金を上げられないのかと言えば、前述の4輪車の輸出を見てもわかるように、一部の大手企業は儲かっていても、下請けや中小・零細企業は、原材料の値上がりと消費税がアップする中で、肝心の仕事は増えず、利益がどんどん減ってしまっている状況だからです。

 今、日本で働いている人の約7割は、中小・零細企業に勤めています。この人たちの給料が上がらないのですから、一部の儲かっている大手企業にお勤めの方達の給料が上がったとしても、全体的には上がらないということになってしまいます。さらに、働いている人の4割は非正規社員なので、ここには給料を上げるというインセンティブも働きません。

 一方で、円安と消費税率8%への引き上げによる物価高は、この先もまだまだ続きそうです。

 ここ1カ月の間に、10円以上の円安になっています。つまり、輸入品の原価が1割以上上がっているということです。今、このレートで海外にオーダーしている商品が、船便で日本に届いてスーパーの店頭に並ぶのは1~2カ月先ですから、来年の正月に、皆さんは、また一段と価格が上がったという実感を持つのでしょう。
そうなると、当然ながらモノを買わないという行動に出ざるを得ないので、デフレ脱却などは、絵空事となるでしょう。

100万人雇用の中身は“非正規社員”!


 2年前の衆議院選のマニフェストで、いの一番に掲げていた「デフレ・円高からの脱却を最優先に、名目3%の経済成長を達成します」という公約は見事にどこかに消え去り、今回の政権公約で大看板として掲げているのが、「2年間で雇用が100万人も増えた」という実績(?)です。

 確かにデータを見ると、安倍政権下で雇用は100万人以上増えています。ただ、その中身は、非正規が増えているということで、正社員は減っています。実際に、2013年1月と2014年9月を比べると、正社員は約10万人減っていて、非正規が大幅に増えています。しかも、この非正規の過半数はシニア世代と主婦世代。シニア世代は、年金が不安なので定年退職後も引き続き働こうという人が多く、主婦世代は、給料が上がらず家計が苦しく、子どもの教育費負担が大きいのでやむをえずパートで働き始めたということでしょう。しかも、「女性が輝く」とはほど遠い、生活のためにこなす仕事に就いています。

 そういう意味では、これを「アベノミクスの成果」と言われても、戸惑います。

 しかも、それ以上に不安に思うのは、政府は、「アベノミクス」以外の重要案件を、まったく争点にしない構えでいること。たとえば、国民にとって重要な憲法改正については、膨大なマニフェストの一番末尾に、言訳程度に6行でチョロっと書かれているだけ。秘密保護法や集団的自衛権については、言葉すらも出てきていません。

 税金の無駄遣いとしか思えない選挙で、こうしたものにまで「国民の信を得た」などと言われては、たまらない気がします。