LGBTをめぐる社会の受け止め方は、この数十年の間に大きく変わった。奇抜なものではなく、当たり前のものとして受け止めようという働きかけも増え、少しずつだが変化してきた。長野県の諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、LGBTをモチーフとした映画『ムーンライト』と、LGBT当事者である介護サービス経営者との出会いを通して、お互いの違いを尊重し合える社会について考えた。

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『ムーンライト』といえば、アカデミー賞授賞式でハプニングに見舞われた、あの映画だ。作品賞で『ラ・ラ・ランド』の名が発表され、喜びのスピーチが進むなか、『ムーンライト』の間違いだったと発表。ドッキリ番組だとしても、タチが悪い。

 その『ムーンライト』を見た。これが実にいい映画だった。キャストはすべて黒人。“白いハリウッド”“白いアカデミー”という批判の反動という人もいるが、そんなヤワな映画ではなかった。
LGBTをモチーフとした映画『ムーンライト』の一場面。アカデミー作品賞を受賞した
LGBTをモチーフとした映画『ムーンライト』の一場面。アカデミー作品賞を受賞した
 この映画は、LGBTがモチーフになっているが、それ自体がテーマではない。あくまでも少年が自分探しをしながら成長していく物語だ。

 画面全体が、月明かりに照らされているようにブルーに輝いている。黒い肌が美しく光を反射する。初めて見る映像美だ。人生の明暗をはっきりと際立たせる太陽の光ではなく、月の光は「生」を悲しく、躍動的に描きだすことにも成功している。

 夢と希望の『ラ・ラ・ランド』もよかったが、アカデミー賞作品賞はこの映画で間違いなかった。人種や、LGBTという性の多様性を認めない一部の風潮に対して、「生」の輝きを見せつけようという映画人たちの心意気が込められているように思った。

 ただ自然体でいれば、自分らしく生きられるというものではない。

 葛目奈々さんは、LGBTの当事者。24歳で性転換手術を行っている。戸籍上の名前も男性名から現在の名前に変えた。水商売を経験した後に介護の世界に入り、介護サービスの経営者として働いている。

 奈々さんが「ほかの人と何か違う」と感じたのは、子どものころから。小学校では女の子とばかり遊んでいた。高校生になると、同級生の男性を好きになり、心と体の性の不一致に苦しむようになった。18歳のとき高校を中退し、上京。新宿二丁目のニューハーフの店で働きはじめる。お金をためて、25歳になったら看護学校に入り、看護師になるというのが、彼女の夢だった。

 この人のすごいところは、自分を客観視できていることだ。自分の現実をしっかり受け止めているところがいい。