2017年06月02日 10:39 公開

ドナルド・トランプ米大統領は1日午後、気候変動への国際的な取り組みを決めた2015年のパリ協定から離脱すると宣言した。米国の企業や労働者に不利にならない「公平」な新しい取り決めの再交渉を始めると述べた。一方で、仏独伊の各国政府はただちに、パリ協定は再交渉しないと反論した。

トランプ氏は、「米国と市民を守るという重大な義務を果たすため」にパリ協定を離脱すると発表。協定は米国の産業と雇用を痛めつけるものだと批判した。昨年の大統領選で自分は国の石油・石炭産業を助けると公約しており、協定離脱はその公約を果たすための措置だと述べた。

大統領は、パリ協定によって米国は国内総生産(GDP)3兆円と650万人の雇用を失い、中国やインドは優遇されていると批判し、「米国にとって公平な条件でパリ協定に入り直すか、まったく新しい取り引きを決めるかするため、交渉を始める」と表明した。

「我々は、よその指導者や国にもう笑われたくない。これでもう笑われないだろう」とトランプ氏は述べ、「私はパリではなくピッツバーグの市民を代表するために選ばれた」と強調した。

トランプ氏はいつまでに離脱するのかなど、期限や行程表は示さなかった。反対勢力は、最重要な地球規模の課題のひとつといえる気候変動について、米国が指導的立場を放棄することにほかならないと批判している。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「非常に残念だ」と表明。欧州連合は「世界にとって悲しい日だ」とコメントした。

パリ協定は2015年12月、地球の気温上昇を産業革命前と比較して2度上昇より「かなり低く」抑え、1.5度未満に抑えるための取り組みを推進すると、気候変動枠組条約の締約国が合意したもの。2016年1月時点で、計188カ国・地域が約束草案を条約事務局に提出し、これまでに米国を含む146カ国が批准した。米国は昨年11月に発効させている。

条約に参加していないのは、これまでシリアとニカラグアだけだった。

専門家たちは、米国の協定離脱によって目標達成がこれまで以上に困難になると指摘する。米国は世界の二酸化炭素の約15%を排出する。その一方で、気温上昇や海面上昇、異常気象などと戦う途上国の取り組みを積極的に支援し、資金や技術を提供してきた。


パリ協定の合意内容は

気候変動、もしくは地球温暖化とは、産業や農業など人間活動によって大気に排出されるガスがもたらす悪影響を意味する。

2015年12月に採択されたパリ協定では、温室効果ガスが原因とされる地球規模の気温上昇を抑制するため、締約国が取り組みを約束した。

締約国の合意内容の要旨は次の通り――。

• 地球の気温上昇を産業革命前と比較して2度上昇より「かなり低く」抑え、1.5度未満に抑えるための取り組みを推進する。

• 温室効果ガス排出量が速やかにピークに達して減り始めるようにする。今世紀後半には温室効果ガスの排出源と吸収源の均衡達成。森林・土壌・海洋が自然に吸収できる量にまで、排出量を2050~2100年の間に減らしていく。

• 5年ごとに進展を点検。

• 途上国の気候変動対策に先進国が2020年まで年間1000億ドル支援。2020年以降も資金援助の約束。

現在までに、合意した197カ国のうち146カ国が批准。米国も批准しており、昨年11月に発効させている。


反応は

ワシントンで取材するBBCのラジニ・バイディヤナザン記者は、多くのトランプ支持者はこの決定を歓迎するだろうと指摘。トランプ支持者にとっては気候変動の科学的見地よりも、いわゆるグローバル・エリートに物申すことが大事なのだと記者は言う。

共和党の議会幹部や石炭産業は、大統領の発表を歓迎。ミッチ・マコネル上院院内総務は「国内エネルギー生産や雇用をひたすら痛めつけたオバマ政権に対して、またしても打撃を与えた」トランプ氏を称賛した。

一方で、パリ協定を支援したバラク・オバマ前米大統領は、トランプ氏の発表をただちに批判し、「未来を拒否した」ことに等しいと非難。「たとえ現政権が未来を拒否する少数の国々に参加したとしても、この国の州や都市や企業が立ち上がり今まで以上に率先して、ひとつしかないこの惑星を未来の世代のために守るため努力するだろう」とコメントを発表した。

これまでにカリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事をはじめ、ニューヨーク、ボストン、ロサンゼルス、サンフランシスコなど複数の首長が、連邦政府とはよそに、自分たちの自治体はパリ協定を順守し続けると表明。トランプ大統領が「自分はパリでなくピッツバーグの市民を代表するために選ばれた」と名指しされたピッツバーグのビル・ペドゥト市長もただちに、「我々はパリ協定の指針に従うと約束する」とツイートした

民主党のチャック・シューマー上院院内総務はトランプ氏の決定を、「21世紀で最もひどい政策決定のひとつだ。この国の経済と環境と国際政治におけるこの国の地位に、ひどい損失を与える」と非難した。

フランス、ドイツ、イタリア各国の首脳は共同声明で、パリ協定の再交渉を拒否。「2015年12月にパリで作られた動きと勢いは不可逆のもので、パリ協定は再交渉できないと我々は固く信じている。協定は、この惑星と各国社会と経済にとって、不可欠な道具だ」と反発した。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は英語で演説し、パリ協定の重要性を強調。「この惑星を再び偉大にすること」は人類全員の責任だと、トランプ氏の選挙スローガンをもじって指摘した。

カナダのマッケナ環境相は、トランプ大統領の決定に「非常にがっかりしている」と記者団に述べた。

テリーザ・メイ英首相も大統領に電話で、落胆していると伝えたという。

スウェーデン、フィンランド、デンマーク、ノルウェー、アイスランドの各国首脳も決定を非難。国連報道官も「温室効果ガス削減と世界の安全保障促進のための世界的取り組みにとって、大きな落胆だ」と述べた。

温暖化による海面上昇で国そのものがなくなる危険にさらされているマーシャル諸島のヒルダ・ハイネ大統領は、「気候変動の最前線に住む私たちにとって、非常に心配」な決定だと批判した。

(英語記事 Paris climate deal: Trump pulls US out of 2015 accord