そこで投入されるのが、「朝鮮人民軍偵察総局」(以下、偵察総局と表記)である。偵察総局は、国外へ工作員を派遣し、要人暗殺、破壊工作、情報収集、世論工作などの各種工作活動を行なうことを任務としている。

 偵察総局は、2009年に労働党と人民軍に所属する特殊機関を大幅に改編した際に創設された。初代局長には軍強硬派として知られていた金英哲(キム・ヨンチョル)が就任した。偵察総局に対する金正恩の信頼は厚く、2015年6月には偵察総局関係者を集めて「偵察活動家大会」を開催して激励している。

 偵察総局所属の特殊部隊員(以下、偵察兵と表記)は、あらゆる面で最高水準の能力が要求される。偵察兵の能力について、2000年に脱北した元北朝鮮軍大尉(34・当時)は、「偵察兵の訓練は、氷の張った冬の海で遠泳を行うなど、尋常ではない」と証言している。また、アメリカ軍の情報でも、「40キロの装備を背負い、24時間以内に山地50キロを踏破できる」とされている。

 どこの国の軍隊でも特殊部隊の訓練は過酷である。しかし、北朝鮮軍の異常性は安全性が二の次になっていることである。このため、落下傘降下訓練や冬の海での遠泳など、訓練中に死亡する事故が発生している。

 このような訓練を積んだ集団が日本国内へ侵入したらどうなるだろうか?

 北朝鮮軍は、北朝鮮と日本を十分往復可能な大型輸送機(イリューシン76)を用いて落下傘降下訓練を行っており、日本へ特殊部隊を投入することも可能な状態にある(なお、この輸送機は最近になって新たに迷彩塗装が施されている)。

 陸上自衛隊最強の特殊作戦群なら彼らに対応できるかもしれない。しかし、現実には法律の壁が立ちはだかることになる。防衛出動が下令されないかぎり、自衛隊の武器使用は警察官職務執行法が準用される。つまり、偵察兵の侵入が「外部からの武力攻撃」とみなされない限り、自衛隊は北朝鮮軍最強の兵士と「警察官」として対峙しなければならないのだ。
 このような、北朝鮮国外における暗殺や破壊工作などのテロを主任務とする特殊部隊の存在は、日本にとっては弾道ミサイルよりも現実的な脅威といえるのではないだろうか?