佐々木伸 (星槎大学客員教授)

 ロンドンの国会議事堂周辺で起きた22日のテロは「起きるかどうかではなく、いつ起きるかだ」(元警視総監)という“時間の問題”だった。しかも車という誰でも容易に入手することができる手段が使われており、事前に犯行を阻止することの難しさも露呈。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出し、事件は一匹オオカミの呼応テロだったことが濃厚だ。

 英国のメイ首相が23日、議会で明らかにしたところによると、犯人は英国生まれ、過去にイスラム過激主義との関連で保安局(MI5)の事情聴取を受けたことがある男だった。首相によると、この男は現在の監視対象から外されており、治安当局には事前に犯行に関するような情報はなかった、という。

 ロンドン警視庁は犯人を英南東部ケント州生まれのハリド・マスードと発表。当局はマスードが単独犯で、「国際テロリズムに感化された犯行」としており、ISの「地元でテロを起こせ」といった呼び掛けに応じたローン・ウルフ型テロだったのではないかと見られている。事件では、これまでに4人が死亡、28人が重軽傷を負った。
ロンドン国会議事堂近くで起きたテロで、けが人に治療をほどこす救急隊員=2017年3月
ロンドン国会議事堂近くで起きたテロで、けが人に治療をほどこす救急隊員=2017年3月
 捜査当局は事件後、ロンドン、中部バーミンガムで家宅捜索などを行い、8人を事件の関連で拘束。ISからの指示など背後関係、犯行を支援した共犯者がいなかったのかどうか、実行犯がいつ、どういう形で過激化し、そして何がテロの引き金になったのかなどに焦点を絞って調べている。

 治安関係者が最も懸念し、注目しているのは、テロの手法とテロが起きた3月22日という日時だ。手法については昨年7月にフランスの保養地ニースで発生したアイスクリーム冷凍車の暴走テロ(86人死亡)や同年12月にドイツ・ベルリンで起きたクリスマス市へのトラック暴走テロ(12人死亡)と同様、銃や爆弾など入手が困難な凶器ではなく、どこでも手に入る車を使っていることが特徴だ。

 昨年、米空爆で殺害されたISの海外作戦の責任者モハマド・アドナニは「石で頭を砕け、ナイフで殺せ、車でひき殺せ」など、どんな手段を使ってでも米主導の有志国の市民を殺害するよう訴えていたが、2つの事件はこの指示に呼応したテロだったことが濃厚だ。アマク通信は今回の声明で、自分たちの兵士が有志国の市民を襲え、という呼び掛けに応じて作戦を実行したとしており、同種のテロの可能性が強い。

 もう一つは日時の問題だ。ちょうど1年前の3月22日にはベルギーのブリュッセルで国際空港、地下鉄の同時爆破テロが起きており、ISにとっての“記念日”に犯行を起こしたとの見方が強まっている。ベルギー・テロの実行犯が犯行前に英国を訪れ、協力者と会っていたことも分かっている。

 英国では2005年に地下鉄やバスの爆破テロで52人が死亡する事件が発生。それ以降、国内の過激派への監視や情報網を強化し、テロを未然に防いできた。特にロンドンの監視カメラ数は世界一といわれ、テロ防止に役立ってきた。当局によると、2013年からの3年間で阻止されたテロ計画は12件に上るという。