福田充(日本大学危機管理学部教授)

 英国マンチェスターにおける歌手アリアナ・グランデのライブ会場で5月22日に発生した爆弾テロ事件の死者は22人、負傷者は多数に上った。サルマン・アベディ容疑者による自爆テロであった。容疑者はリビア系イギリス人の22歳の男性、リビアからの難民二世であったと伝えられている。
6月4日、英中部マンチェスターでアリアナ・グランデさんらが出演した慈善公演(ロイター=共同)
6月4日、英中部マンチェスターでアリアナ・グランデさんらが出演した慈善公演(ロイター=共同)
 これこそ現代の国際テロの特徴がそろった典型的なテロリズムだといえる。まずは一般市民を狙った無差別テロという特徴である。標的となったのはライブ会場という「ソフトターゲット」で、「メディアイベント」「ランドマーク」「公共施設、交通機関」などが挙げられる。

 メディアイベントとは国際的に要人やメディア、観客が集まる五輪、サッカーW杯、サミットのような国際的イベントがそれに当たる。また、2つ目のランドマークとは、2001年の米同時多発テロ事件でニューヨークのワールド・トレード・センター・ビルが攻撃され、計画段階では自由の女神像までも標的となっていたようにその国の文化的、歴史的な象徴となるもの、観光地などが含まれる。3つ目の公共施設には誰でも利用できるライブ会場やスポーツ競技場、レストランなどが含まれ、交通機関には鉄道の駅や空港などが含まれる。

 さらに、現代テロリズムの次の特徴はその国で育った国民、住民がテロを起こす「ホームグロウン」(自国育ち)型テロという側面であり、テロ組織に所属しない個人や兄弟などでテロを実行する「ローン・ウルフ」(一匹狼)型テロという側面である。今回のマンチェスター爆弾テロ事件には、これらの現代的テロリズムの特徴がすべて当てはまることが分かる。実は、2013年の米ボストンマラソン爆弾テロ事件など現代の多くのテロ事件がこの特徴に該当する。イスラム国(IS)をはじめとするイスラム過激派組織が「グローバル・ジハード(聖戦)」と呼ぶ戦略に基づいたものである。

 この現代的テロリズムの特徴を改めて問い直すことが重要なのは、この現代的テロリズムの特徴が、現代のテロリズムを未然に防ぐことが極めて困難になりつつあることの原因だからである。かつて1900年代中盤くらいまでは主流であった要人暗殺テロよりも、現代において一般市民を狙った無差別テロが増えたのは、政治家など権力者の警備が極めて強固になったことにより、要人暗殺テロの実行が容易でなくなったことの反動である。また同時に、社会が民主化されることにより、国民の生命の価値がより尊重される時代が到来したこともその遠因の一つである。