緊張感の消えた日本政治


 日本の政治から政権交代の緊張感が消えました。今般の衆議院選挙の最大の特徴はこれです。野党第一党の民主党も、第二党の維新の党も、本気で自民党に挑戦しているようには見えず、次につなげるための延命に関心があるようです。90年代前半の自民党の最初の下野以来、曲がりなりにも存在した緊張感が失われ、他方で、かつて自民党内に存在した派閥抗争と自民党内の擬似政権交代の緊張感もありません。

 民主主義というシステムは、想定可能な代替案が存在しないと機能しないものです。日本の政治はそんな領域へと漂流しつつあります。もちろん、国際環境の構造や、国内経済の現実の制約という時代性を加味すれば、ある一定期間、「この道しかない」ということもあるでしょう。しかし、それが長期的に健全な状況でないことは明らかです。だとすれば、長期的に二大政党制、あるいは政権交代の緊張感を与えるための構造とは何か、ということが大事になってきます。
 

保守二大政党にしかリアリティーない


 日本に安定的な二大政党制が確立したのは大正デモクラシーの時期の政友会と民政党の時代です。権力の中枢であった藩閥との距離感や地域的な偏りなど細かいことはありますが、すごく乱暴に言うとこの二大勢力は、それぞれ「統治利権」と「経済利権」を代表しており、今の感覚から言うと双方ともに保守です。だからこそ、双方が全国的に支持を広げることができたのです。ここで言う「利権」とは、代表される利益や権力基盤という意味です。

 日本の地方の実態からすると、そこではいわゆる名望家によるリーダーシップが、明治時代から変わらず、今日に至るまで重要です。地方の首長や地方議会の議員は、地域の有力者であり、大半は経済的・文化的な背景から本質的に保守的傾向があります。日本の選挙制度は、一票の格差や参院選挙区の定数の関係から地方票の影響力が大きくなるように設計されています。結果として、地方の有力者を包含した全国的な組織政党を作り上げるには、保守である以外にリアリティーがないのです。

 もちろん、大きな工場が集中して立地され、組織労働者の割合が大きくなった地域では労働界に近い層が力を持つこともありますし、経済的に貧しい階層が集中する地域では左派的な政党が支持を集めやすいという傾向はあるでしょう。しかし、それらはあくまで例外です。

 日本という国には、たいへん幸福なことですが、国民の間に深刻なクリービッジ(=分断)が存在しません。これは、明治以来の中央集権化の重要な成果です。二大政党制を安定的に機能させている国にはこの分断があります。英国にとっては階級ですし、米国では人種を中心とする国家像の違いです。そして、この分断が地域的にある程度固定化してしまっています。日本には、これがありません。日本の地方は全部保守で、全部自民です。

経済改革を前面に出した野党に期待


 自民党の強さの本質は、経済利権と統治利権の両者の上にどっかりと居座っていることです。ですから、日本に二大政党制が確立するかどうかは、野党がこのどちらかを突き崩せるかにかかっています。

 経済利権をとりにいくのであれば、政策志向は資本主義重視であり、小さな政府であり、規制緩和や現役世代の負担軽減が重要になってくるでしょう。ただ、通常は小さな政府の主張だけでは有権者の多数を惹きつけられませんので、社会政策や歴史問題などの面で保守的な傾向を併せ持つことになるはずです。

 反対に、統治利権を重視するならば、政策志向は大きな政府で反資本主義的で、権威主義的でありながら戦後リベラリズムを擁護する立場となるでしょう。官僚組織とも一定の協力関係を築き上げるような政権です。自民党の議員の多くが二世/三世で経済的にも特権階級化しつつあることを攻撃し、公平な予備選挙を実施したり、女性の比率も高めたりすることになるでしょう。

 ここで効いてくるのが国民の中に存在する民主党政権の失敗の記憶です。民主党の中でも、市民運動の流れを汲む方々はムダな公共事業を攻撃し、官僚を攻撃するDNAを持っています。民主党は本質的には統治利権側の政党であるにも関わらず、経済利権的な政治的エネルギーで政権に就いたことに矛盾がありました。それでも、政権を担っている間に、統治能力を発揮できたならば歴史は変わっていたでしょう。歴史に「もし」はありません。日本政治に存在したかもしれない統治利権の側から日本を変えるチャンスは失われました。そのチャンスは、おそらく一世代の間は戻ってこないでしょう。

 だからこそ、当面は経済利権のプレッシャーに期待せざるを得ません。経済利権を旗印にした改革は民主党政権では全く進みませんでした。アベノミクスの第三の矢も本当に的を射ることができるか、まだまだこれからです。日本の政治に緊張感を取り戻すためには、野党各党が単なるパフォーマンスの域を超えた本当の経済改革を主張できるかにかかっています。今般の選挙では期待できないとしても、延命したあかつきには、ぜひお願いします。