名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)

 トランプ米政権の「ロシアゲート」疑惑をめぐって注目されたコミー前連邦捜査局(FBI)長官の議会証言は、トランプ大統領が捜査に圧力をかけていたことを示したが、決定的な情報はなく、想定の範囲内だった。今後の焦点はモラー特別検察官の捜査に移り、長期化が予想される。こうした中で、関与を全面否定していたロシアは釈明に動き始めた。捜査の焦点は、ロシアの選挙介入疑惑より、トランプ大統領とロシア新興財閥の「深すぎる闇」の解明に移るかもしれない。

 プーチン大統領は6月4日、米NBCテレビとの会見に応じ、ロシアが米大統領選にハッカー攻撃を仕掛けたとの疑惑について、「政府機関は一切関与していないが、一部の愛国主義的なハッカー集団が西側の反露政策の報復として行った可能性はある」と述べ、初めてロシア側の介入を認めた。ロシアのサイバー攻撃については、米国の17の情報機関が一致して「攻撃があった」と結論づけており、これ以上の否定は困難とみなしたようだ。

 一方で、「米国は他国の選挙結果に影響を及ぼそうと内政干渉してきた」「(得票総数が当選に結びつかない)米大統領の選挙制度自体を変えたらいいのではないか」「米国のような巨大な国の選挙結果をサイバー技術で変えられるはずがない」などと釈明。「現在米政界で起きているロシアコネクションの追及は、反ユダヤ主義を彷彿(ほうふつ)とさせる」と批判した。

 プーチン大統領はこの後、米映画監督のオリバー・ストーン氏とも会見し、米議会でロシア非難の急先鋒(せんぽう)である共和党のマケイン上院議員について、「古い世界に住む政治家だが、国益のために全力を尽くす彼の愛国主義が好きだ」と述べ、天敵にエールを送った。さらに、「国際テロや貧困などグローバルな問題で米露は協力すべきだ」と訴えた。

安倍晋三首相との共同記者発表で発言するプーチン大統領
=4月27日、露モスクワ(共同)
安倍晋三首相との共同記者発表で発言するプーチン大統領
=4月27日、露モスクワ(共同)
 7月7、8両日、独ハンブルクで行われるG20サミットで、プーチン、トランプ両大統領は初会談を行う予定であり、一連のプーチン発言は会談の成果を狙って、米世論を沈静化させる狙いがあるようだ。ロシアは欧州の一連の選挙にもサイバー攻撃を仕掛けたが、仏大統領選で期待した極右のルペン候補は惨敗。オランダ総選挙でも極右政党は敗退したほか、9月のドイツ総選挙もメルケル首相与党の勝利は動きそうもない。

 親露派、トランプ大統領の登場で米露関係を改善し、欧州でも極右政党を躍進させ、一気に西側の対露包囲網を突破しようとしたプーチン戦略は破綻した。
 
 主要国でロシアに手を差し伸べるのは安倍晋三首相だけだが、プーチン大統領が北方領土問題で安倍首相を冷たくあしらうのも不思議だ。安倍首相は6月のG7サミットで、ロシアとの対話を重視すべきだと対露融和外交を訴えたが、欧州首脳はそれを無視し、冷淡だったという。トランプ政権もロシアゲートが足かせとなって対露融和外交には動けず、欧米の対露制裁は長期化しそうだ。