2017年06月21日 16:06 公開

キャリー・グレイシー中国編集長

キャリー・ラム(林鄭月娥)氏は、自分が死んだら天国に行けると考えている。「なぜなら自分は良い行いをしてきたから」だという。

彼女は真顔でそれを言う。

実際のところ、長年公務員を務め、来月1日に香港の行政長官に就任する60歳のラム氏は、インタビューの間、ずっと真剣な表情だった。時折の神経質な笑いと、ドアに向けられた視線、記者の質問が公平でないという抗議以外は。

公正を期すため言うが、ラム氏は少なくともインタビューに応じた。それも就任する前に。前任者の梁振英行氏は任期中の5年間、一度もBBCのインタビュー要請に応じなかった。

ラム氏はカトリック教徒だ。香港行政のトップの座を目指したのは責任感からだったかもしれない。人気を得たいためでないことは確かだ。選挙期間中、ラム氏が冷たく、市民生活をよく知らないと非難されるなか、同氏の支持率はライバル候補をいつも下回っていた。

彼女を行政長官に選らんだのは、企業寄り、中国政府寄りの委員たちが多数を占める選挙委員会で投じられた777票のみだ。香港人口の0.1%に過ぎない票を獲得したことで、どうして香港を率いる信任を得たと言えるのか。ラム氏に質問をぶつけてみた。

「そうですね。数字の問題ではないと思います。問題は正統性です」とラム氏は答える。「ご存じの通り、選挙委員会そのものが、香港社会のあらゆる分野を幅広く代表する選挙人によって構成されています」。

しかし、選挙委員会は泣き所だ。2014年に香港で大規模な民主化運動のデモが起きたのは、行政長官を選挙委員会による選定を経ずに自分たちの手で選びたいと望む人々がいたためなのだから。

いわゆる「雨傘運動」によって、香港中心部の機能は3カ月近く停止したが、中国政府の考えを変えはしなかった。過去20年間の香港の行政長官と同様、ラム氏は今後、中国の傀儡(かいらい)だという非難と戦うことになる。

「人々の目にどう映るかが重要なのは分かっています」とラム氏は語る。「しかし、私が単なる北京の繰り人形で、親中国勢力によって当選したなどと言うのは、私が過去36年間に香港の人々のためにしてきた働きを認めないのと同じです」

だが、1時間半のインタビューを終えた私は、中国政府を怒らせる発言は避けるというのが、まさにラム氏の主な目的だという結論を否定できずにいる。

7月1日に習近平・中国国家主席によって行政長官に任命されるラム氏は、香港市民と中国政府の両方の主人に仕えることになる。

なかには、両方の主人に同時に仕えるのは不可能だと言う人もいる。しかし、梁振英行氏のナンバー2として働いてきたラム氏は、それに取り組んだ経験がある。インタビューで分かったのは、ラム氏の手法の一つは回避だということだ。

香港の独立を求める声を例に取ろう。そのような主張が香港の言論の自由で保護されるのかどうか、ラム氏は確認しようとしない。

「我々は法律を順守する」

それ以上のことは言えないとラム氏は話す。

当然だろう。とても困る質問だ。雨傘運動が失敗に終わった後、一部の若者たちは、中国が香港に民主主義を許さないのなら、香港は自治を拡大するか、自決権を主張、あるいは独立を目指すしか方法はないと主張した。

中国政府にとっては、彼らの主張は容認できない。

中国のほかの地域では、このような主張をすれば長期にわたって投獄される。香港では自治や言論の自由が認められているものの、中国政府の高官らは、独立が香港で主張されるのは国家安全保障への脅威だとみなす。

ラム氏は議論に巻き込まれるのを拒否し、「香港は中華人民共和国の分かちがたい一部だと思う」と述べるにとどめた。

「『一国二制度』を全体的に捉える必要がある。『一国』という背景を無視した『二制度』にどのような意義があるのか」

もう一つの微妙な問題は、2015年に書店・出版関係者たちが中国本土から送り込まれた工作員に拉致されたという疑惑だ。しかしこれについても、ラム氏は慎重だ。市民の懸念について、ラム氏は中国政府と香港の橋渡し役になるのが自分の役目だと認める。

香港は高い水準の自治が認められている、その香港に対して不適切な介入があったと懸念されるなら、行政長官は世論を反映して、人々を代弁して声を上げなくてはならない――。ラム氏はこう言う。

英政府は書店・出版関係者らの拉致について、1997年の香港返還をめぐる条約に対する「深刻な違反」だとした。しかし、ラム氏は関与しない姿勢だ。

本当に介入があったと断言できるのか、本土の当局が香港で本土の法律を執行しようとしたという、疑いようのない証拠や事実があるのか――。ラム氏は疑問視する。

香港の市民生活が脅かされるという懸念に、ラム氏は強く反論する。英国植民地時代の最後の香港総督、パッテン卿によると、中国政府は香港に対する支配をじわじわと強めてきた。しかし、ラム氏は一国二制度は「かつてなく堅固」だし、法の支配は「1997年以前よりも良くなった」と話す。

香港返還から20年たった今、司法制度はとても独立しているとラム氏は言う。

そのラム氏が一つだけ、これまでの取り組みには問題があったと非を認める部分がある。

「私は非常に正直で率直なので告白しますが、近年、人々との間に距離ができています。一部の人、特に若者は、政府や自分たちの国と十分つながっていないと感じている。若者たちを参加させる努力がもっと必要です」

ラム氏が就任するまであと10日を残すだけととなった。就任に合わせて抗議デモが予定されているなか、市民との間にどの程度の距離があるのか、実感する機会になるのかもしれない。

(英語記事 Hong Kong's Carrie Lam: 'I am no puppet of Beijing'