いずれにせよ、賠償金云々の話はまだまだ先のことであり、実際に訴訟が行われるかどうかもわからないのだから、「翁長知事は菅官房長官の恫喝に怯えて撤回に踏み切れない」という観測は必ずしも適切ではない。

 菅官房長官の賠償発言に、沖縄県の財政当局は大きな不安を抱えているだろうが、知事個人には「自分は沖縄県民の民意を後ろ盾に闘ってきた」という思いがあろうから、「賠償請求の可能性がある」程度の話で弱腰になるとは考えにくい。

 だが、問題はその「民意」だ。「沖縄県民の民意」が翁長知事を支えているという構図は大きく揺らいでいる。しかも、その揺らぎを生みだしたのは、翁長知事自身と「オール沖縄」なのである。その証拠はいくつもある。

 証拠の一つ目として挙げたいのは、沖縄における首長選の連敗である。沖縄県政界は、目下翁長派(オール沖縄)と反翁長派に大別されるが、今年に入ってから行われた3つの首長選(宮古島市長選、浦添市長選、うるま市長選)で、「オール沖縄」は3連敗を喫している。

 市長選の場合、当該自治体固有の課題や地域固有の政治力学が色濃く反映するので、「翁長派VS反翁長派」という対立の構図がそのまま当てはまるわけではないが、「翁長支持・オール沖縄」で凝り固まった地元メディアが対立の構図をいたずらに強調しすぎたきらいがあり、県民のあいだに「翁長派敗北」が必要以上に強く印象づけられてしまった。その結果、県民の「翁長離れ」が進み始めている。いわば「自殺点」である。
沖縄県民大会でメッセージボードを一斉に掲げる参加者=2016年6月、那覇市(竹川禎一郎撮影)
沖縄県民大会でメッセージボードを一斉に掲げる参加者=2016年6月、那覇市(竹川禎一郎撮影)
 第2に、翁長知事やその支援者、そして地元メディアなどが繰り返し述べてきた「沖縄VS日本」という構図もまた「沖縄の民意」を動揺させている。「沖縄は差別されている」「沖縄は虐げられている」という彼らの主張は一時県民を刺激し、反対運動も盛り上げたが、辺野古や高江などの闘争の現場で、県民以外の活動家が次々に逮捕される現状が明るみになるにつれ、翁長知事を支援する保守層のあいだにも、「一体誰のための反対運動なのか。『沖縄VS日本』ではなく『反政府運動VS政府』が実態ではないのか。沖縄はその構図に巻き込まれているだけではないのか」といった疑問が浮上している。

 第3に、辺野古埋め立て承認訴訟での翁長知事の敗訴も民意に影響を与えている。敗訴に直面して、「やっぱり国にはかなわないのか」という諦めを感じた県民も多いというが、県民のあいだには「知事は勇ましいことをいってきたが、成果は何もない」といったように翁長知事自身の責を問う声も少なくない。敗訴によって、保守層から共産党まで広く支持を集めていた「オール沖縄」に大きな軋みが生じたということだ。

 第4に、国による「懐柔策」が功を奏しているという側面がある。実はこれがもっとも重要なポイントである。