中村幸嗣(元自衛隊医官、血液内科医)


 小林麻央さんが亡くなりました。夫の市川海老蔵さんのブログでは、母がいなくなった家族の姿、そして揺れる心が描かれています。家族の死は残されたものにかなりのダメージを与えます。

 生命の危機があるがん患者だった麻央さんのブログは、BBC(英国放送協会)の記事でも書かれているように今までの日本ではありえないものでした。

小林麻央さん=2011年3月10日、東京都港区(撮影・財満朝則)
小林麻央さん=2011年3月10日、東京都港区(撮影・財満朝則)
 本人に辛いことは知らせないという文化の日本。そう、がんが患者本人にほとんど告知されていなかった昔の日本の医療において、家族でサポートして最後までだまし続ける「嘘も方便」の方法が取られていた時代があります。

 欧米から「がん告知」の文化が輸入されましたが、それに伴う心理的影響を和らげてくれる宗教的フォロー(神父の病院常駐など)、カウンセラーの充実といった気持ちをサポートする制度の導入は正直日本では一部でしか行われませんでした。それだけが原因ではないですが、死生観について日本ではあまり深い議論もなされてきませんでした。

 また、がんを告知する医師も相手の気持ちに寄り添う行為についてはトレーニング不足で、その結果、日本には自己責任の名の下、気持ちが落ち着かない告知後の患者たちがどんどん増えていたのです。

 本来であれば緩和医療を含め、がん患者に対するサポートは、行政、医療、家族、友人が行っていくべきなのですが、非正規、共働き、核家族化、高齢化した日本では、ともに寄り添いながら話ができる時間も場所も限られています。それこそ最近できたがん患者の支援施設「マギーズ東京」以外ほとんどありません。

 家族会なども本当にがんばっているのですが、いかんせんネットに飛び交ういい加減な情報、そして閉じこもりがちになる告知後の患者の傾向、病院においては共感しにくい教科書的対応など、結果患者は誰にも相談しにくい状況となり、今までのがん患者さんの気持ちを和らげる方法が正直足りていなかった可能性があります。

 なぜ、麻央さんのブログがここまで共感を得たのか。そして医療的には今後どのようにしていくことが望ましいのか、医師としての自分の意見を述べさせていただきます。