「うっかり1票、がっかり4年」小池バブルはどうせ弾ける

『佐々木信夫』

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佐々木信夫(中央大大学院教授)


 今回の東京都議選は、「都政の見える化」を進める小池百合子知事の信任を得る性格が強く、小池氏が率いる地域政党「都民ファーストの会」の大躍進に終わった。都民ファーストが第1党、それに自民、公明、共産、民進と続く結果だ。これで都議会の構成は、「自・公」主導体制から「都民ファ・公」主導体制に変わるだろう。

 「東京大改革は都議選に勝つこと」。こう公言してはばからなかった約1年に及ぶ小池都政。豊洲移転も築地再整備も五輪施設見直しもすべては都議選に焦点を当てて政局化し、ドラマ化することでメディアの話題を独り占めする。端から見ればそう思えるような都政運営だったが、少なくも都議選に勝つための戦略という点では見事成功したと言えよう。
記者会見する都民ファーストの会代表の小池百合子知事=2日午後、東京都新宿区(納冨康撮影)
 なぜ、そうまでして都議選の結果にこだわるのか。都知事の役割は議決機関の都議会を掌中に収めることなのか。そんな疑問を解く間もなく都議選は終わった。一つの目的を達した小池都政だが、その思惑通り東京大改革は進むだろうか。それより、この東京大改革って一体何をやる改革なのか。「宴の後」については必ずしもハッキリしない。

 筆者は、今回の選挙での有権者の判断基準を以下の点において注目していた。

①小池新党は都政を託するに値する政党かメンバーか。風に乗るだけではないか。

②この先も「都政の見える化」改革を続けるのか。他方、政策の遅滞をどうみるか。

③小池知事は大組織、大都市の経営者として信頼できるか、決められない知事では。

④都議会で都民ファ+公明が過半数を占める選択を是とするか非か。自民の存在は。

⑤都議選後の政界再編をにらみ小池新党を国政改革の台風の目に押し上げるか否か。

 具体的には、
 ①小池都政の都政運営の仕方をどうみるか。議会にも職員にも都民にも相談なく進めるワンマン都政のやり方。情報公開、見える化を進める一方、政策形成・決定過程は外部顧問依存のブラックボックスに近い。合意形成より知事独裁に近いメディファーストの都政運営をどう評価するか

 ②豊洲移転か築地再整備かその折衷案か。豊洲移転延期から相当時間とカネが掛っている。豊洲移転と築地再開発の方向は示すが採算面など依然不透明。カネと時間などロスが非常に大きくなっているが、このやり方にストップをかけるのかどうか。

 ③五輪準備は相当遅れているが大丈夫か。遅滞する環状2号線整備、全体的に遅れる五輪向け都市整備。「総合的に判断」としながら、ワンイッシュー(単一争点)にこだわり整合性を欠く都市経営をどうみるか。

 ④小池都政の政策面への期待感はどうか。待機児童の解消など少子化対策、待機老人、インフラ劣化など「老いる東京」対策、首都直下など防災対策という都民生活に直結する政策問題にどのようなプログラムとスケジュールで取り組むのか。

 ⑤都内のコップだけでなく、東京一極集中批判に都政はどんな政策態度で臨むのか。

 しかし、実際はこの5つの争点に答えを出すような論戦はあまり深まったとは言えなかった。選挙戦が始まると、意外に都政の政策をめぐる論戦は乏しく、「決められない知事」との批判も弱まって、豊洲移転・築地再整備をめぐる経済論戦もなく、小池都政を支持するか否か、安倍政権の緩みをどう見るか、といった点に終始したように思う。都議選なのか、国政の中間選挙なのか、それがダブってしまったような選挙だった。この選挙で都民はいったい何を選択したのだろうか。
小池バブル現象

 勝った側は公約が全部支持されたと理解し、負けた側は外部要因が悪すぎたと言うのかも知れない。しかし、争点の希薄な戦いの中で、多数の議席を得たから公約が全部支持されたという理解は早計だろう。負けた側は外部だけでなく内部要因にも問題があったことを反省すべきではないか。

 もっとも、これだけの大有権者市場での選挙は「結局、選挙なんて正確な緻密な政策選択よりも、現状の政治をそのまま続けるか、変えるかの選択にしかならない。それで選挙は十分だ」という、ざっくりとした見方がある。案外、その見方が妥当なのかもしれない。東京のような大票田では、争点を「ワンイシュー」に定めない限り、有権者の関心は拡散し、何かの選択を迫ること自体、無理なのかもしれない。
応援演説をする小池百合子代表=6月23日
 とはいえ、少なくも今回の選挙でハッキリしたのは「何かを変えて欲しい」という意思の存在だ。「現状に対する強い不満のエネルギー」が蓄積している民意だけは確認できた。だからといって、この先も豊洲移転や五輪見直しの騒動を引き続きやれという話ではなかろう。何を変えるのか、東京大改革という「妖怪」が覆っているだけでは、そのうち行き詰まる。ここからが小池都政の正念場となろう。

 約1年に及ぶ小池都政は、あたかも今回の都議選のためにあるような「小池ブーム」だった。そこで選挙中、聞こえてきたのは「都民ファースト」の連呼と、東京大改革をオウム返しのように叫ぶ若い男性、女性候補者の声だった。

 有権者1100万人の巨大な選挙市場をどう制するか。出身地の地元を地縁、血縁、学縁などを頼りに支持(票)を集めるドブ板選挙と違い、マスメディアの取り上げる争点をめぐって「空中戦」が展開される。それが首都選挙で、それを制したのはメディア操作に長けた小池氏、そして氏が率いる「都民ファーストの会」だった。

 結果として、小池氏が党首を務める新興勢力、地域政党「都民ファーストの会」が自民、民進らを大きく上回り第1党になった。これで途中から小池支持に変わった公明を加えると、小池氏の支持勢力は過半数を超える。

 他会派への都民ファーストの推薦まで入れると、石原都政など以前の自公3分の2与党体制から、自共を除く都民ファーストら小池支持勢力で3分の2の与党体制ができ上がったことになる。ただ、このことが今後の都議会、都政運営に「吉」と出るか「凶」と出るか、まだ分からない。

 当初、小池人気が直接、都民ファーストの票にはつながりにくいとみられたが、国政での「森友・加計問題」の隠ぺい、自民党の相次ぐ議員の不祥事や不適切発言に救われ、与党を切り崩す力も示せない民進党の力量不足もあって、不満の受け皿は都民ファーストへ向いた。その点、都民ファーストへの積極支持と自民、民進の「敵失」に対する消極支持の入り交じった票がすべて小池新党に向いたという理解もできよう。

 ただ、今回の選挙を振り返り、立候補者の顔ぶれもよく分からないまま、都民ファーストというだけで投票した人も相当数いたのではないだろうか。劇場型選挙で大量の票が流れ込んだこの現象を、筆者は政治の「小池バブル現象」と呼んでおきたい。経済のバブル現象と同じように期待値が高く、票数も議席数も膨れ上がった現象を指す。

 90年代初頭に日本経済が味わったように、いずれバブル経済と同じように弾ける時が来る。ただ、その時期は選挙後の都政運営が本格化してみないと分からない。
都議会は変われるか

 小池氏が掲げた「東京大改革は都議選に勝つこと」。この目標は見事に達成されたことになるが、キャッチフレーズとした「古い議会を新しい議会に変える」はどうなるのか。都議会改革は確かに都政改革の大きな柱といえる。

 ただ、メンバーが変わり、当会派の勢力図が変わったからといって、それだけで新しい都議会になるわけではない。大東京の都政改革は、議会サイドも役所サイドも従来の個別事業中心の事業官庁から全体を俯瞰し、都市経営に持ち上げていく。「政策官庁」に脱皮できるかどうかが核心的な論点だ。

 都議会が「政策都議会」に脱皮できるか、そのためにやるべき改革は何か、そこが焦点になる。古いメンバーを新しいメンバーに変えたからといって、やることが同じなら何も変わらない。たぶん、小池氏の問題意識も「議論のできる」「提案のできる」議会に変えたいと主張した点を見ると、この点は同じではないか。

 もともと「通りやすく、落ちやすい」というのが都議選の特徴である。毎回、何かしらの風が吹き、その風に乗って当選する議員が多く、だいたい3分の1が入れ替わる。結果、当選回数も少なく、ある意味「素人議員集団」に近いのが都議会であり、平均年齢も若く当選1、2回という新人議員が6割近くも占める。
都議選の期間中、候補者の第一声に耳を傾ける聴衆=6月23日、東京都渋谷区
 冷静にみると、今回の都民ファーストの大量当選でメンバーは大幅に入れ替わったが、これまでの都議選とそう大きくは変わらない。そうした素人集団の間隙を縫うように、ごく一部の多選議員が「ボス化」し、議会運営を差配する構造が生まれやすくなる。

 それを小池氏は「ブラックボックス」とか、「ドン支配」と表現したが、今回の選挙結果でその構図が大きく変わるのか。なかなか信じがたい。その手掛かりをどこに求めればいいのか。

 東京大改革というなら、その勢力図の変わった都議会を通じて、どのように東京の抱えるさまざまな大問題を解決していくのか。「役に立つ都議会」にどう変えて行くのかが問われよう。そこまで見ていかないと、今回の都議選の結果が都政にプラスになるかどうか、その評価も難しい。

 都議会改革は報酬や手当の改革より、政策自立、都政の政策の質を高めることがテーマだ。政策問題と格闘し、質を高めるような都議会活動に変えられるかどうか。都政は、議員と知事を別々に選び、双方が抑制均衡関係を保つよう求めた「二元代表制」だ。政権与党の党首が首相になり、内閣を率いる国の制度とは全く異なる。議会は知事を翼賛する機関でもなければ、投票マシーンでもない。独自の代表からなる都政の政治機関である。

 対して、都知事は行政の最高責任者であり、本来は執行機関の立場と立法権を有する議会とは離れた立場、つまり公正中立の立場から都政運営が求められる。だが、ここまでの流れを見る限り、あたかも都知事が政党の党首になり、都議会で多数勢力を形成し議会を差配する。都議会に与党勢力を意図的につくり、それが政権与党として都知事を支えるという「議院内閣制モデル」を前提にコトを進めているように見える。それが「良い都政」を実現する近道だと主張する。果たして、それは本当に正しい方向なのか。

 都民ファーストが第1党になったからといって、議会本来の役割、つまり決定者、監視者、提案者、集約者の役割を放棄するような行動は許されない。あくまでも機関対立主義を前提に、執行機関の知事と対峙していくスタンスが求められる。

 都議会は知事の追認機関であってはならない。これは地方自治の大原則である。地方自治を支える「車の両輪」として、都議会は都知事と抑制緊張関係を保ちながら、予算や施策を監視する責任がある。

 この春の都議会で、石原都政で展開された豊洲市場の土地購入、移転の経緯を28人の証人喚問までしてつぶさに調べ上げた。その結果、その不透明ぶりも浮き彫りになり、小池氏はそれを長年にわたって知事与党だった自民、公明両党が、チェック機能を十分果たしてこなかった証左と強く批判した。そのことを今回の選挙で小池新党も強く批判し、その改革姿勢に多くの都民が支持した。
「会派あって議会なし」

 しかしこの先、批判の図式は小池氏にも向くのではないか。小池氏は知事だが、地域政党の党首であり、東京五輪を主催する最高責任者でもある。この「3つの役回り」を一人でこなすのは容易でない。筆者が思うに最低2人の知事は必要だろう。だとすれば、小池氏は地域政党の党首を辞任した方がいい。

 というのも、この先の都政運営で一番懸念されるのは、今回の選挙で大量議席を得た「都民ファーストの会」が小池氏の子飼いの集団に過ぎないからだ。どう考えても小池知事の方針に追従する性格が強い。その集団が「判断は知事の方針に従う」というのなら、議会本来の役割を果たせるのか大いに疑問である。

 執行機関の知事は、議決機関である議会と権力分立の観点からも意図して分離する選択をすべきではないだろうか。でなければ、行政は大きく歪む可能性がある。
東京都議会本会議=3月30日、都庁(酒巻俊介撮影)
 一つ間違うと「会派あって議会なし」、小池派と非小池派という分断された都議会となりかねない。行き過ぎた政党政治の考え方を都政に持ち込むと、「知事独裁体制」に突き進んでしまう。予算編成権を独占する知事だけに、その地位を利用して都民ファーストの公約を中心とする「予算重点化」を図る可能性がある。多くの有権者はそんな事は期待していない。あくまで公正中立な都政運営に期待を寄せている。

 筆者は以前、iRONNAで「都民ファースト=小池百合子」、ただしそれは「きれいな包装紙に包まれたお中元のようなもの」だと指摘した。封を開けてみるまで中身は分からない。新党に期待するという意味では、筆者も多くの有権者と同じだが、過去の新党ブームは選挙が終わると萎(しぼ)み、4年後には消え去るという苦い経験があるので人一倍注意深くみている。というのも、都民ファーストという新党も、そのメンバーをみると、売りは新人の「小池塾出身者」とは言うが、半数以上は既成政党からの移籍組、今回そのままでは落選可能性が予想された面々が多いことだ。

 「玉石混交」といっては失礼かもしれないが、都議選への緊急避難、駆け込みで集まったメンバーが相当数いる。志がないとまで言わないが、どうも「選挙ファースト」の色彩が強い点が気になる。元民進系、元自民系、元みんな系といった移籍組がズラリと顔をそろえる。彼らは選挙前に移籍の理由をいろいろ弁明していたが、本音は小池ブーム(風)に乗っかりたかっただけである。首尾よく当選したので、それで目的を果たしたことになるのかもしれない。

 国政で日本維新の会から渡辺喜美氏(元みんなの党主)が離党し、民進党から長島昭久氏が離党し、自民党からも若狭勝氏が離党し、みんなが小池新党の選挙応援に入った。こうした動きがこの先、都民ファーストが国政政党を目指す際の牽引力になると想定される。ただ、「4種混合」の政党では一つの会派を維持することが当然難しくなる。4つのグループに分断され、バラバラの行動をする中小会派にもなりかねない。都議選から2年経ち、折り返しに入ると次の都議選に目が向く。すると、また当選第一主義の動きが出て分裂、移籍が始まる。都民ファーストもそうならないとは限らない。
混声合唱団まがいの都民ファースト

 昔から選挙目当てで寄ってくる集団を「選挙互助会」と呼ぶ。新味があるとすれば、小池塾の出身には期待できる。選挙前から小池氏もここを売りに「素晴らしい人たち」「専門家の集まり」と宣伝していたので、そこは額面通り受け止めたい。

 ただ小池氏と同じように、メディアファースト志向が強い点がどうも気になる。テレビ映りだけを気にして行動する。都政に役立つ仕事ができるのか、この先はチェックしたい。ただ、こうした新党なりブームで当選した新人に危惧されるのは、いま自民党2回生議員を中心に起きている、いわゆる「安倍チルドレン」の相次ぐ不祥事だ。

 名前はいちいち挙げないが、この人たちが最初に当選したのは2012年の解散総選挙である。民主党(当時)から自民党が政権を奪回したあの選挙で、大量の新人議員が「安倍ブーム」の中で当選した。これら新人議員の誕生に共通して言えるのは、特定の政治思想や政治家に強く感銘を受けて議員を志したというより、むしろ特定の権力者が自分や所属する党会派の勢力を拡大するために大量の新人を立候補させる必要があったということである。つまり、たとえ「粗製乱造」であっても、頭数を必要としてやむなく公認した人たちも相当含まれているという事実だ。
 当選確実の報道を受け千代田区の石川雅己区長に譲り受けていた緑色のネクタイを返却する「都民ファーストの会」の樋口高顕氏(左)=7月2日、東京都千代田区(松本健吾撮影)
 では、都民ファーストの会はどうか。新人議員を多数誕生させる必要があるときには、じっくり人物を見極める暇などなく、粗製乱造がどうしても避けられない面がある。今後、国政の前例のような問題が都議会で起こらないか。もちろん起こらないよう望むが、果たしてどうだろうか。それは小池都政の今後に暗い影を落とすことになろう。とはいえ、「小池チルドレン」は大量当選した。どんな新機軸を打ち出し、都議会を、そして都政をどう変えて行くのか、「うっかり1票、がっかり4年」という言葉が都政史にはある。都議選が終わり、新しい時代の都政へ新たな扉が開かれることを期待したい。


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