三船恵美(駒澤大法学部教授)

 パンダほど、国家を背負って、国境を越える政治的役割や経済利益や広報活動を担っている動物は、なかなかいない。丸くてふわふわ、モコモコ、愛らしいパンダは、中国のソフトパワーの象徴である。

 ジャイアントパンダのメンメン(夢夢)とチアオチン(嬌慶)が6月24日、ドイツの首都ベルリン近郊のシェーネフェルト国際空港に、ルフトハンザ航空の特別貨物機で到着した。ベルリン動物園で15年間飼育されることになった2頭のパンダに、毎年約92万ユーロ(約1億1000万円)がドイツ側から中国側に支払われる。空港から動物園まで信号ノンストップで移動したメンメンとチアオチンは、盛大なセレモニーで歓迎され、敷地面積約5500平方メートルの「新居」を準備された。

 7月5〜7日にドイツを公式訪問した中国の習近平主席は、ドイツのメルケル首相とともに、ベルリン動物園でのパンダ館開館式に出席した。中独国交樹立45周年を迎えた2017年の「パンダ外交」は、ハンブルクでの20カ国・地域(G20)首脳会合に出席のために習主席が訪れたドイツで、友好ムードの演出を大いに盛り上げるものとなった。
6月24日、ベルリンの空港に到着し、輸送用コンテナの中から外を見るパンダ(DPA=共同)
6月24日、ベルリンの空港に到着し、輸送用コンテナの中から外を見るパンダ(DPA=共同)
 国交正常化45周年を迎えた日本でも、上野動物園でリーリー(力力)とシンシン(真真)の間にメスのパンダが誕生し、祝福ムードが続いている。自民党が東京都議会選挙で大敗した7月2日に、中国海軍の情報収集艦1隻が津軽海峡で日本の領海を侵犯するなど、中国の挑発的なニュースが絶えない。しかし、上野のパンダ誕生については、日本の多くのメディアが和やかに祝意を示している。中国艦船による領海侵入をあまり報道しなかったメディアでも、パンダ誕生については時間や紙面を割いて伝えている。パンダの「威力」は大きい。

 パンダ外交の歴史は古い。太平洋戦争の最中、国民党政権が日中戦争にアメリカから協力を得ようと、プロパガンダ(宣伝)の手段としてパンダを贈呈したことに遡(さかのぼ)る。蒋介石夫人の宋美齢がアメリカに贈ったパンダは、1941年12月、日米開戦における負傷兵の第1便とともに、サンフランシスコに到着している。

 ただ、中国が「パンダ(と信じられている動物)」を外交に登場させたのは、658年に唐の則天武后(在位690-705年)が日本の斉明天皇に国礼としてつがいのパンダを贈ったことに始まる、という説を報道した中国メディアもある。しかし、これは歴史的に証明されていない。

 中華人民共和国建国後、中国がパンダを贈与したり貸与したりすることの意義や狙いは、何だろうか。パンダ外交は大きく3つの時期に分類できる。その変遷によって、パンダ外交の意義や効果は広がってきている。