2017年07月06日 14:21 公開

ジョン・ニルソン=ライト博士、英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)

北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射に成功した、米国攻撃が可能だと、自信たっぷりに発表した。北朝鮮はどうやら、掛け金の高い国際ポーカーが非常に得意で、今回の発表はその駆け引きの新たな一手だ。

7月4日の米独立記念日にきっちりタイミングを合わせた堂々たるミサイル発射によって、北朝鮮を独裁支配する金正恩氏は、軍の近代化という国民への約束を実現した。そして同時に、北朝鮮のICBM発射は「あり得ない」と書いたドナルド・トランプ米大統領の自信過剰なツイートがいかに空虚なものかを暴いて見せた。

「火星14」ロケットの発射は、実際的な意味では単に、5月の発射実験からごくわずかな進展を意味するに過ぎない。5月には類似のロケットが30分間飛行し、約2111キロの高度に達し、約787キロの距離を飛んだ。

今回のミサイルは、前回より飛行時間を7~9分伸ばし、高度を約640キロ、飛距離を約140キロあまり伸ばした。

表面的にはこれは単に、北朝鮮が何十年も繰り広げてきた挑発と戦術的な武力誇示の繰り返しに過ぎない。北朝鮮は(1960年代から)長年にわたり核兵器保有を追及してきたし、昨年から今年にかけてはミサイル実験を加速化させてきた。

とはいえ、アラスカを射程圏内に収める今回の実験は、象徴的な意味でも実際的な意味でも、紛れもない「ゲーム・チェンジャー」(試合の流れを一気に変える要因)だ。

大半の米国本土からは地理的に離れているとはいえ、アラスカという米国領土がついに北朝鮮政府の標的内に入った。そして、北朝鮮が単に北東アジア地域や米国の主要同盟各国への「本物で現在の」危険だというだけでなく、米国そのものにとっての「本物で現在の」危険なのだと、米国大統領が初めて受け入れざるを得なくなった。

トランプ大統領は自分の「手」を、あまりにあけっぴろげに、かつ大声で、過剰に振りかざした。それが弱点だ。

空母カール・ビンソンを中心とする打撃群を「アルマダ(大艦隊)」と呼び、これを朝鮮半島へ派遣するという当初の戦法は、歴史用語の使い方がまずかったというだけでなく(16世紀スペインの「無敵艦隊」は結局は大敗したため、同じ言及するにしてもこれほど縁起の良くない表現はそうそうなかった)、北朝鮮の威圧に著しく失敗した。

同様に、中国に圧力をかけるトランプ政権の戦術も失敗したようだ。中国を為替操作国に指定しないという抑制的な経済措置と引き換えに、北朝鮮に懲罰的制裁を科すよう、トランプ政権はあからさまに中国に圧力をかけたのだが。

中国の習近平・国家主席は、4月のマール・ア・ラーゴ首脳会談で流れた友好的なムード音楽もさることながら、トランプ氏の追及をするりとかわしたようだ。そして北朝鮮による最新の挑発行為への中国の反応は、おそらくおなじみのもの、北朝鮮を言葉の上では非難しつつ全当事者に平静を呼びかけるという対応に留まるのだろう。

米政府がすぐに実行できる選択肢は限られている。

軍事行動は、ジョン・マケインやリンジー・グレアムといった共和党上院議員たちのタカ派的な提案はともかくとして、実際にはほとんど不可能だ。ソウルへの報復攻撃のリスクもそうだし、北朝鮮の戦略拠点や政治指導部を取り除くという意味での成功の可能性が、きわめて低いからだ。

おそらく国連安全保障理事会を再招集して追加制裁が検討されるのだろう。しかし、この政治プロセスは冗長で、制裁の実行力は良くて部分的、つまりは効果のない対応なのだ。

外交交渉は前に進む方法の一つだ。文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領の最近の訪米と、米韓両政府の方針すり合わせから、北朝鮮との部分的交渉再開が何らかの形であり得るのかとうかがわせる。もっともこれはあくまでも、核抑止強化の枠組みの中での話だが。

とはいえ今のところ、勢いがあるのは北朝鮮のみだ。北朝鮮にしてみれば、米国との交渉に応じるインセンティブ(動機)はほとんどない。北朝鮮としては、国際社会の分断を自国利益に変えながら、軍の近代化を加速化させるための時間稼ぎをする方が得策だ。

その一方で、ドイツで今週開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議では米国、韓国、日本の首脳たちは一致して、強硬策を求めるだろうが、結局は中国とロシアの賛成が得られず、当たり障りのない非難声明以上のものを確保するのに苦労するはずだ。

現在の危機は二重に危険だ。

今回の実験成功に自信を得た金正恩氏は、今まで以上にリスクを恐れず、通常の軍事瀬戸際政策に携わるようになるかもしれない。すると、近隣諸国への先制攻撃とまではいかないものの、意図してというより偶発的な誤算から衝突に至りかねない。

あるいは、交渉の余地がないはずの「赤い線(超えてはならない一線)」を北朝鮮がまたしても超えてしまった場合、その不快な現実に直面した米国が現実から目をそらすだけで終わってしまう可能性もある。

自己流の「偽ニュース」に固執する大統領にとっては、たとえ不都合な真実が出現したとしても、真実の定義を変えてしまうか、あるいは当初の「超えてはならない一線」を単に無視するのが、一番簡単な取り組み方だ。

しかしこれは対応方法としては大間違いだ。北朝鮮を抑制する効果は何もなく、かつ周辺諸国に対しては、もはや独自に軍事力を刷新した方がいいというメッセージになってしまう。これは将来へ向けて、問題をいっそう山積させるだけだ。

トランプ氏が自分は本当に「取引の名人」なのだと知らしめたいのならば、米大統領は結局のところ、ツイッターという演台からのメガホン外交を諦めて、より賢明なアプローチをとる必要がある。

これにはたとえば、北朝鮮の若い指導者のエゴと自己愛を満足させるような、高名な米国政界の重鎮を交渉役に派遣するという、発想力豊かな手もあり得る。

あるいは、韓国をはじめとする米国の同盟各国との調整をより緊密にし、北朝鮮に目立つ政治的譲歩を提供することも、ひとつの手だ。たとえば、平壌に米政府の連絡使節事務所を設けたり、あるいは朝鮮半島の通常兵力を一方的かつ連続的に削減するなどが考えらえる。

今の米政府は(地域と世界全般のため)、目玉と目玉をこすり合わせるように虚勢を張りあう以上の、より長期的かつ持続的で調整された対北朝鮮交渉戦略を、喫緊に必要としている。

衝動的で注意力散漫で落ち着きのないトランプ大統領は、ポーカーをやめてチェスに切り替えた方がいい。

ジョン・ニルソン=ライト博士は英シンクタンク「チャタムハウス」(王立国際問題研究所)北東アジア担当上級研究員、およびケンブリッジ大学日本政治東アジア国際関係講師

(英語記事 North Korea new missile test: A game-changer?