中国が北朝鮮を止められない3つの理由

『月刊Wedge』 2017/06/20

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小原凡司 (笹川平和財団特任研究員)

 中国は、北朝鮮の核兵器開発に反対し、米国と協力姿勢も示してきた。しかし、中国は米国の軍事力行使を含む全てのオプションを支持している訳ではない。中国にとって、北朝鮮が米国との間の緩衝地帯であることの重要性は変わらない。中国は戦略的縦深性にこだわるのだ。これが、中国が北朝鮮に対して強い制裁をかけきれない理由でもある。一方で、現実主義者である中国は、米国の軍事力行使の可能性も視野に入れている。矛盾しているともとれる中国の態度の背景にある本音はどのようなものだろうか?

 米国の軍事的圧力及び中国の政治的働きかけ、そして国連の制裁決議にもかかわらず、北朝鮮は核弾頭と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を加速させている。このまま、北朝鮮が時間稼ぎに成功すれば、近い将来、米国に対する北朝鮮の核攻撃という脅威が現実のものとなる可能性が高い。
北朝鮮によるICBM発射を受け開かれた国連安保理の緊急会合=2017年7月、ニューヨーク(共同)
 米国もそれを理解していない訳ではない。2017年6月7日、米国防総省のスーファー副次官補(核・ミサイル防衛政策担当)が、米情報機関の分析に基づき、北朝鮮初のICBM発射実験について、「年内に実施できる態勢が整う」と議会に証言したのだ。

 トランプ政権は、北朝鮮が米本土を射程に入れるICBMを保有することを警戒してきた。米国は、何人たりとも米本土を自由に攻撃できる能力を持つことを許さない。ましてや大量破壊兵器である核兵器だ。北朝鮮のICBMの発射実験が成功すれば米国内で危機感が高まり、北朝鮮に核・ミサイル開発の放棄を迫る現在の「最大限の圧力」政策の転換を迫られる可能性がある。その行き着く先は、北朝鮮に対する米国の軍事力行使だ。

 北朝鮮は、米国を攻撃できる核兵器を保有することが唯一の生存の手段であると考えている。核兵器がなければ、米国や他の大国によって、体制が崩壊させられると考えるのだ。自国(現在の統治システム)の生存のための核兵器及び弾道ミサイル開発を、たとえ国際秩序に反すると非難されても、北朝鮮があきらめるはずがない。

 こうした状況の下で、米国の中国に対する期待は高い。米国は、自国の軍事的圧力だけで、北朝鮮に核兵器・弾道ミサイル開発を放棄させることは難しいと考え、特に、2017年4月に行われた米中首脳会談以降、強く中国に協力を要求してきた。北朝鮮指導部に対して唯一影響力を持つ国であり、北朝鮮が経済的に依存している国であると考えられているからだ。

 2017年6月13日、ティラーソン国務長官が、上院外交委員会の公聴会において、核兵器・弾道ミサイル開発を続ける北朝鮮への制裁に関し、「次の段階に進みつつある」と述べ、北朝鮮を支援し続ける第三国に対する制裁を検討していることを明らかにした。中国などを念頭において、国連安保理の制裁決議の履行が不十分だとしてけん制したものと捉えられている。

 国連の制裁決議後も、中国から北朝鮮に資金や物資が流れているのは事実である。2017年6月15日、米検察当局は、北朝鮮のマネーロンダリング(資金洗浄)に関わったとして、中国遼寧省の貿易会社に対して、約2億1千万円の差し押さえを求めて、米国の首都ワシントンの連邦地裁に提訴したと述べている。検察当局によると、北朝鮮に関わる差し押さえとしては最高額となるというが、「最高額」と言うからには、これ以外にも複数の同様の案件が発生しているということだ。
中露関係を利用する北朝鮮

 それでは、中国は、本当に北朝鮮に対して経済制裁をかける気がないのだろうか?これまでに何度も言ってきたことだが、中国が北朝鮮に対して強い経済制裁をかけきれない理由は大きく3つある。

 1つ目は、北朝鮮が暴発することだ。北朝鮮の経済状態が悪化すれば、社会が不安定化して指導者に対する不満が増大するだけでなく、核弾頭及び弾道ミサイル開発に用いる資金が枯渇し、部隊を動かす燃料さえ不足する可能性がある。追い詰められた北朝鮮が、自棄になって軍事的に暴発するかもしれないと恐れるのである。
朝鮮中央テレビが放映した、「火星14」が地上に立てられる映像(共同)
 2つ目は、北朝鮮が中国のコントロール下から外れてしまうことだ。これまでも、中国が強い経済制裁をかければ、北朝鮮はロシアにすり寄ってきた。中国とロシアの間には、不信が充満している。相互に、自国が安全保障のために重要だと考えるエリアで、相手の影響力が高まることを警戒するのである。

 例えば、ロシアは、中国海軍がオホーツク海で行動することに対して警戒を露わにしている。2013年7月に実施された中ロ海軍合同演習「海上連携2013」後、中国海軍は、演習参加艦隊の一部を分離して宗谷海峡を抜け、オホーツク海に入ったが、この直前、ロシア海軍艦隊が宗谷海峡からオホーツク海に入っている。ロシア海軍は、「ここがロシアの海だということを中国に知らしめるためだ」と述べていた。

 ロシアが、北方四島、特に、国後島及び択捉島を決して日本に返還しようとしないのは、この2島がオホーツク海を囲い込む重要な一部だからであり、安全保障上、極めて重要な位置に存在するからでもある。

 中国も同様に、極東でロシアが影響力を増すのを警戒している。二国は、グローバルな視点では協調姿勢を見せることが多いが、それは中国もロシアも米国という最強の地域覇権国をけん制する必要があるからだ。しかし、極東に焦点を合わせて見ると、違った中ロ関係が見えるのである。

 これら2つの理由の背景には、自国にとっての米国との間の緩衝材としての北朝鮮を失い、戦略的縦深性を失いたくないという中国の意識がある。

 3つ目は、前述の2つの理由とは異なり、中国国内政治に関わる理由である。中国における中央と地方の微妙な関係の反映なのだ。北朝鮮との貿易等で利益を上げているのは中央ではない。遼寧省等の地域なのである。

 今回、米検察当局が差し押さえ対象にした中国の貿易会社は、その遼寧省に所在する企業である。この遼寧省という地方には問題がある。遼寧省は、2016年の経済成長率が中国全省の中で唯一マイナスになった地域なのだ。北朝鮮との取引が遼寧省経済に占める割合に関わらず、北朝鮮に対する経済制裁は、遼寧省の経済にマイナスの影響を与えることは間違いない。
中国に北朝鮮への軍事援助義務はあるのか?

 習近平総書記は、秋の中国共産党第19回全国代表大会(19大)を控え、地方の反発を買いたくはない。習近平総書記及びその周辺は、2016年初めから、各省など地方を含む共産党内で習近平総書記を核心とするキャンペーンを行ってきたが、各地方の反応を見た中国メディアの記者や研究者の中には、「19大は微妙だ」という者たちもいる。

 習近平総書記にとって、現在は、国内政治のパワー・ゲームの季節なのだ。それでも、中国は遼寧省と北朝鮮の関係を黙認している訳ではない。2016年9月、遼寧省丹東市の遼寧鴻祥実業発展有限公司の会長が、北朝鮮に核とミサイル開発物資を密輸した容疑で逮捕されたのに続き、丹東市のトップも更迭された。丹東市は、遼寧省の中でも、北朝鮮との貿易の最前線として知られる。
習近平氏
 中国は、北朝鮮国内が暴発しない程度、米国の圧力とロシアの思惑、国際関係と国内政治、それぞれの及びそれら相互間のバランスをとろうとしているに過ぎない。

 東アジア地域における米国の軍事的影響力が増すことは、中国にとっての「平和で安定した地域情勢」を崩すものだ。中国は、米国の妨害なしに発展し、地域及び国際秩序の構築を主導したいと考えている。中国が北朝鮮の核弾頭・弾道ミサイル開発に反対する理由もここにある。北朝鮮が核を振りかざして米国を挑発するのは、手招きして、米軍に「来て下さい」と言うに等しい行為だからだ。

 一方で中国は、現実主義者である。中国自身が、これまで不満国家として、国際社会における自らの権利を変更しようとしてきたのだ。「全ての国家は既存の国際秩序を守らなければならない」という主張が、強者によるユートピアニズムであることを知っている。中国は、北朝鮮もまた自らの権利を変更しようとしていることを理解しているし、また、それゆえに北朝鮮が核弾頭と弾道ミサイルの開発を止めることに対しては悲観的である。

 そして、その行き着く先に米国の軍事力行使があることも中国は想定しているということでもある。しかし、中国は、現段階で米国と軍事衝突しても勝利できないことを理解している。中国は、米国が北朝鮮に軍事力を行使した場合、この戦争に巻き込まれたくないと考えるのは当然のことだ。

 実際、2017年4月頃から、中国国内で、中朝友好協力相互援助条約の「参戦条項」の無効を主張する声も上がっている。「一方の国が戦争状態に陥った場合、他方の国は全力で軍事援助を与える」と規定した第2条に従えば、北朝鮮が米国と開戦した場合、中国は軍事援助の義務がある。しかし中国は、同第1条の「両国は世界平和を守るためあらゆる努力を払う」という規定を盾に取り、「北朝鮮の核開発はこれに違反している」ので、中国には援助義務がないと主張するのである
中国の「本音」は

 「血の友誼」を謳う同盟国である中国のこうした態度に、北朝鮮は怒っているだろう。しかし、中国も北朝鮮に腹を立てているのだ。中国にとって、北朝鮮は中国と同じではないのである。中国は、経済発展して強者を目指しつつ、国際社会における自らの権利を変えようとしているが、北朝鮮は経済的実力もないのに挑発行為を繰り返すのだ。中国が、改革開放政策を取り入れて経済発展するよう促しているにもかかわらず、北朝鮮はこれに応じようとはしない。

 北朝鮮の核兵器開発や核による恫喝は、1960年代に毛沢東主席(当時)が行ったことと同様である。「弱者の選択」として、核開発に国内資源を集中しなければ、米ソの妨害を排除して生存を続けることができないと考えたのだ。これも、現在の北朝鮮の考え方と同様である。
天安門に掲げられた毛沢東の肖像画の近くで警備する武装警察隊員=北京(共同)
 しかし、中国には、鄧小平氏がいた。彼は、1978年の党第11期三中全会において「改革開放」政策を打ち出してから、経済発展を追求してきた。しかし、改革開放政策は、経済政策だけでなく、集団意思決定及びボトムアップの政策決定の制度化にもつながるものであった。金一族の独裁的統治システムである北朝鮮には、これが受け入れられない。

 一方で、中国は、金一族の統治、少なくとも金正恩氏の統治にはこだわらない。対外的な問題を抱えたくない中国にとって、米朝軍事衝突といった事態は避けたい。中国の状況を考慮すれば、中国は、米朝軍事衝突が起きるくらいであれば、北朝鮮国内でクーデター等によって勝手に体制が変えられることを望むはずだ。

 それでも、北朝鮮国内でのクーデターは、積極的に期待できるとは考えられない。米国と北朝鮮の主張は交わることはなく、衝突コースを進んでいる。もし、米国が北朝鮮に対して軍事力を行使したならば、中国は、自らが参戦せずに済む短期間で戦闘が終了することを願うだろう。

 中国にとっては、中国が発展し強者となって国際社会の支配的国家グループの仲間入りをし、中国にとって経済的に有利である「自由」な国際秩序を構築することが、何より重要である。

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