衆院選で自公が圧勝し、安倍政権は長期化する可能性が出てきた。

 本稿では安倍政権の医療政策について意見を述べたい。

 私は、安倍政権は医療については、あまり熱心でないと感じている。厚労省・厚労大臣に丸投げの感が強い。

 その最大の根拠は、診療報酬改定だ。平成26年度の改定では、プラス0・1%と説明された。ただ、消費税が増税され、医療機関は存在問題を抱えるため、実質はマイナス1・26%の大幅なマイナス改定だ。

 平成25年度の税収は約47兆円。当初の見積もりを1・6兆円上回った。税収は伸びたが、医療費は抑えたことになる。

 これと対照的だったのが、民主党への政権交代後の平成22年の診療報酬改訂だ。全体でプラス0・19%、金額にして700億円相当を引き上げた。実に10年ぶりのプラス改定であった。

 注意すべきは、このときはリーマンショック直後で、税収が大幅に落ち込んでいたことだ。平成21年度の税収は38・7兆円に過ぎない。この中で、民主党政権は、医療に重点的に予算をあてがい、40万人以上の雇用を産みだしたと言われている。この過程で、民主党政権幹部は、財務省と全面的に対決した。

 民主党政権と比較して、安倍総理の政権運営は安定している。多くの国民が、今回の解散・総選挙に賛成していないのに、与党を支持しているのも頷ける。

 ただ、安倍政権の医療に対する基本的な姿勢は、我々は認識しなければならない。

 私個人としては、安倍政権のやり方に反対ではない。社会保障費を圧縮しなければ、いつの日か、我が国は破産する。医療費と雖も、青天井で増やせる筈がない。医療費の抑制は必要だ。

 しかしながら、医療費を抑制するだけでは、医療システムは破綻してしまう。高齢化が進むわが国では医療需要は急増する。我が国の医療は政府による価格統制が徹底しており、診療報酬を引き下げ続ければ、やがて医療機関の経営は立ちゆかなくなる。

 医療崩壊を防ぐには、医療システムに循環する資金を増やさねばならない。税金・保険料で補えないのであれば、民間の資金を活用出来るようにしなければならない。

 そのための具体策が、混合診療の解禁である。

 我が国では、健康保険で支払う治療はすべて厚労省が一律に価格を決めている。混合診療が禁止されているため、例外はない。このことが、我が国の医療の進歩を阻害し、医療産業の発展を妨げている。

 先日、13年間、凍結させた卵子を用いて出産した癌患者のニュースが報じられた。このように、我が国の不妊治療は世界最高水準だ。それは不妊治療が自費診療で、医療機関が独自に価格を設定できるからだ。患者満足度を上げれば、価格に転嫁できる。収益を増大すれば、最新機器を購入し、専門スタッフが雇用できる。一方で、不妊治療の専門医も増え、医療機関間に競争が生じ、サービス内容・料金は多様化した。これは患者にとっても福音だ。

 厚労省は、完全自費診療には関与せず、混合診療は厳禁というのは二枚舌だ。厚労省が、このような態度をとるのは、医療行為の医学的妥当性よりも、医療費の支払いに関心があるからだろう。医療費の伸びを抑制するとともに、医療行為の価格の決定権限を握ることで、大きな権限を持てることは官僚にとって好都合だ。ところが、こんなことを続けていると、我が国の医療は崩壊してしまう。

 我が国の医療システムが生き残る、つまり国民皆保険を堅持するには、混合診療規制の緩和が必須だ。

 ただ、この問題に安倍政権が真摯に取り組んできたとは言いがたい。安倍政権は「岩盤規制改革」の象徴として、混合診療の解禁を唱っているが、先月、厚労省が発表した案では、混合診療が実施できるのは原則として百程度の大病院に限定されるらしい。これでは、多くの国民が規制緩和の恩恵に預かることが出来ず、見事な骨抜きである。

 我が国の医療は、混合診療禁止という規制のもと、様々な既得権を生んできた。公定価格の元、一切の値下げ競争に曝されることはなく、開業医から製薬企業まで大きな利益を上げてきた。厚労官僚たちも絶大な権限を持ち、医療業界誌は、診療報酬改訂情報を垂れ流すだけで、売り上げを確保している。混合診療規制を緩和しようとすれば、彼らからの抵抗を受ける。混合診療規制の緩和は、政治的にはタフな仕事だ。さて、安倍政権は、どこまでやるだろうか。総選挙後の動きに注目したい。