村上貴弘(九州大学決断科学センター准教授)

 5月26日に兵庫県尼崎市のコンテナ内から「世界の侵略的外来種ワースト100」に入っているヒアリが発見されてから1カ月あまり。次々に見つかるヒアリに付近住民のみならず多くの人々が心配をしている状況です。私の知り合いの息子さんもヒアリに刺される夢をみているという連絡があり、心を痛めています。多くの人々に正しい情報を提供し、正しく恐れることを目的に本稿を書き進めたいと思います。

ヒアリの女王アリとみられる個体(環境省提供)
ヒアリの女王アリとみられる個体(環境省提供)
 まず、第一点目は、ヒアリの毒はアリの中で最も強い毒というほど強くはないということです。世界には、もっと強い毒を持ったアリが複数存在します。

 では何が問題なのでしょうか? 一番の問題はその繁殖力です。現在、米国では、アラバマ州、テキサス州、フロリダ州など南部の18の州に定着しています。そして、地域住民の約50~90%(約1000万人)がヒアリに刺された経験を持つといわれています。この数の多さが厄介なのです。

 その中でアナフィラキシーショックを示すのが約1~2%、亡くなられた方が約100名ということで致死率は0・001%程度です。したがって、死への恐怖をあおるというのは正しくなく、広範囲に定着して多くの人が刺されてしまうということを心配することが正しいと思います。

 現段階の日本の現状をまとめてみましょう(2017年7月11日現在)。これまで6地点(尼崎、神戸、大阪、名古屋、春日井、東京)で侵入が確認されています。そのうち春日井市(愛知県)の事例を除いてすべてが港のコンテナ内、もしくはコンテナ保管場所から見つかっています。内陸の春日井市では1個体の働きアリが見つかっています。女王アリは大阪港で見つかっています。これらの情報から現段階で日本へのヒアリの進出状況は『侵入』段階で、『定着』には至っていません。

 ヒアリの駆除には初期対応が重要です。ヒアリは1930年代にアメリカ合衆国に侵入・定着した後、カリブ海、オーストラリア、ニュージーランド、台湾、中国に侵入・定着しています。

 アメリカ合衆国は、もっとも対応を誤ってしまった国です。問題点として①気づいたときには多くのヒアリが定着していた(初期対応の不足)、②ヒアリ駆除の方法論が確立されていなかった、③レイチェルカーソン著「沈黙の春」でヒアリの被害が過小評価され、DDTやBHCなどの強力な殺虫剤を使えない状態になってしまった、④南米では天敵となっているノミバエを使った生物防除の大規模実証研究もしていますが、有効な手段にはなっていません。

 現在、米国では年間5000~6000億円の経済被害が出ています。おもな被害は農作物の食害、電気設備の配線を食い破りショートさせる、公園などに営巣したコロニーの除去、敷地内に巣がある場合の不動産価値の低下などがあげられています。