日本人好みの「間接自慢」進化系、それがインスタ女子である

『iRONNA編集部』

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原田曜平(博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー)

 若者に人気のSNS「インスタグラム」上で、芸能人が「偽装リア充」をアピールしているというニュースが相次いでいます。華やかなセレブ生活をアピールするために巨額の借金をしていたタレントのGENKINGさんや、友人と食事しているように見せるために、1人で2人分の食事を頼んで写真を撮っていたモデルの西上まなみさんがテレビ番組で言ってましたね。

 でも、これはあくまで芸能人の特殊な例で、一般の女の子の場合はもう少し小ぶりな例が多いんじゃないですかね。例えば友達同士で集まって、そんなに盛り上がってもいないのに、SNSに載せるための写真を撮るときにはみんなでジャンプをしてあたかも楽しそうに仲良さそうにみせるとか、その程度のものでしょう。

 名古屋で6月に、見た目がかわいいソフトクリームを写真だけ取ってほとんど捨ててしまっている、という写真がツイッターに投稿され話題になったけど、そういった「事件」がその後続いていないことをみると、極端な行動を起こす人はごく一部なんです。

 若い女の子たちの「承認欲求」は、SNSというツールによって可視化されることで、エスカレートしているように見えます。例えば、友達と楽しそうな写真を撮ったり、かわいいソフトクリームの写真を撮ったりするのは、日常の記録のためという人もいますが、多くはインスタグラムなどのSNSに投稿し、「いいね」ボタンをたくさん押してもらうという承認欲求を得たいからなんです。

 SNSという公衆の面前で、人が見ていることを前提に投稿しているということは、当然その場でどれくらいの人がリアクションしてくれるのか見たいという欲求がわきます。フェイスブックもツイッターも同じで、投稿したものに対してリアクションができるボタンがあるからこそ、反応が気になる、そういうツールですからね。
原田曜平氏(博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー)
 昔は「君かわいいね」「お前いいよな」と面と向かって言われるのが承認欲求の満たし方だったけど、今では知らない人でも、遠くにいても、「いいね」ボタンがあることで、認める側もライトに「いいね」ができます。そして、認められる側も数多く、幅広く「いいね」を集められる。もともとあった承認欲求というものが表現されやすくなったんでしょう。

 いままでは、男なら飲んで酔っ払って深酒して、「実はおれ結構お前のこと認めてんだよ」と、そこまでいかないとなかなか引き出せなかったものが、いまはボタン一つでできるってこと。きっと今のおじさまたちがインスタグラムをやってみたら、同じように承認欲求を表現する行動をとると思いますよ。
「いいね」とビックリマンチョコの共通点

 そういえば、僕が小さい頃、「ビックリマンチョコ」の買い占めがありました。「おまけ」のシールだけ抜き取ってチョコだけ大量に残すというのが社会問題になりましたけど、インスタグラムに起こっていることと全く同じじゃないですか。

 ビックリマンチョコも、所有というワンステップを置いているだけで、最終的にはレアなシールや強いシールを見せびらかして承認欲求を満たしていたんです。ビックリマンシールは今でいう「いいね」ボタンでしょう。別に最近の若者が病んでいるわけでもなく、いつの時代でも若者というのは、承認欲求を得るためにバカなことをするやつが一部いるということなんです。

 要は人間の本質って20年、30年では変わりません。ただ、インスタグラムなどのSNSがこれだけ普及すると、ツールが生まれた分、行動も変わってきます。例えば、最近の若者は「写真動機」と呼ばれる動機をもとに行動をしているんです。昔ならおいしいものを食べに行き、いい景色だったから結果として写真を撮っていました。でも、今は旅に行くにしても、SNSで画像検索をして、例えばウユニ塩湖でジャンプした写真を撮りたいからウユニ塩湖に行こう、となります。目的と動機の主従が逆転しているんですね。常にスマホでカメラとSNSを持ち歩いている現状があるからこそ、そういう行動動機になるのは必然といえます。20年前でもカメラとSNSを渡したら同じようになっていたはずです。
インスタグラム投稿例

 もう一つ、インスタグラムを利用する女の子の特徴的な行動として、「間接自慢」というものがあります。要するに婉曲表現、間接表現による自慢ということです。

 例えば、「私、彼氏ができました。ラブラブです」という彼氏とのツーショット写真は絶対に載せない。「栃木の温泉にきています。今旅館でごはん中です」というコメントとともに写真を載せるのに、本来だったら真上から料理を撮ればいいものを、なぜかちょっと引いて撮る。その角度の先に2人分のお皿がチラッと見える。「この子彼氏と来ているの?それとも女友達?」というくらいに匂わせる手法を間接自慢というんです。

 この手法を使っている女の子はかなり多いですね。青春18切符を写真に撮って、「これで貧乏旅しています」といいながら、ブランドもののバックをさりげなく映り込ませたり、「今日は東京タワーに来ています」と運転席から東京タワーを引きで撮り、さりげなく車のエンブレムを映り込ませたり、そしてその車がフェラーリだったりするんです。

 この間接自慢は、写真を中心にコミュニケーションするインスタグラムの象徴的な文化でしょうね。そもそも写真というものは、いろいろなことを示唆できる。それを一般の女の子たちが気軽に使って表現できるようになったがゆえに、間接的に自分を自慢する行為が生まれたんです。
インスタは最も平和なSNS

 そして、今のトレンドは、「より自然に盛る」ことらしいですよ。例えば最近、自分の後ろ姿を写真に撮ってインスタグラムに載せる子をよく見かけますよね。そこに街並みの全体も見えて、路上の店舗も映り込んでいて、おしゃれな世界観をなにげなく自然に見せてね。でも、よく考えたら自分のページに自分の後ろ姿が載っているのは、すごく不自然じゃないですか。道のどこかにスマホを置いて、カシャッと撮っているわけだから。ただ、写真だけパッとみたら、本当は不自然だけど、なんとなく自然な写真に見えてしまうんです。
 どうして間接的に自慢したがるのかといえば、それは日本特有の文化だと思いますよ。海外でも間接自慢の写真はあるかもしれませんけど、基本的に海外の方が階級や階層などの格差が当たり前のようにあって、自慢は悪いことじゃないからこそ、やんわりとした表現はあまり使わないんです。

 その一方で、日本はなんとなくみんなが平等じゃないといけない雰囲気があって、直接自慢するやつは嫌なやつ、という島国根性、ムラ社会的な文化があるじゃないですか。だからこそ多くの人が間接自慢をやりたがるんです。直接は言いにくいからね。

 とはいっても僕はインスタグラムをわりと肯定的に見ているんです。たしかにうがった目で見ると気持ち悪いかもしれません。ただ、人生は必ずしもいいことばかりじゃなく、能力もないしお金もないし自信もないし、という人がたくさんいるんです。そういう人が写真を投稿して、たった10個の「いいね」をもらうだけで、心がちょっとホッとするならそれはそれでいいのかな、と思います。人に認めてもらうことで、いろいろなものを維持できる人が世の中にはたくさんいますからね。ある意味で心のセーフティーネットになっているならいいことじゃないですか。

 そのためだけに写真を撮る、ということを「病んでいる」とみるか、肯定的な見方をするか、それはどちらも間違っていないと思います。ただ、インスタグラムはツイッターと違ってリツイート機能がない分、炎上もほとんどなくて、最も平和なSNSといえます。LINEだって既読になっていないとか、既読スルーとかでもめたりしますよね。人の結婚式で悪口が言えないのと一緒で、インスタグラムはきれいな写真を載せることが多い分、きれいな場所はそんなに荒れませんからね。今までのSNSの中では一番良質で、誰も傷つけないのがインスタグラムだと思いますよ。

 インスタグラムを使う若者たちをおじさまたちは受け入れられないかもしれません。でも、それは自己表現するツールが変わっただけで、昔の人が同じものを持っていたら同じことをしていたはずです。いつの時代もそうでしょう、もし江戸時代に車があったら、遠くまで行けるようになることで人々の行動や生活が劇的に変わるじゃないですか。おじさま世代にとってSNSはバーチャルであって、意味のないものに見えるかもしれないけど、実はモータリゼーションと同じくらい大きなことかもしれないと僕は思いますね。

(聞き手 iRONNA編集部、中田真弥)

はらだ・ようへい 1977年、東京都生まれ。慶応大卒業後、博報堂に入社。現在、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。多摩大非常勤講師。近著に『新・オタク経済 3兆円市場の地殻大変動』 (朝日新書)など多数。

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