鈴木貴博(経営コンサルタント)

 数年前になるが漫画「ONE PIECE(ワンピース)」に関連して『ワンピース世代の反乱、ガンダム世代の憂鬱』という社会論を書いたことがある。私を含む50歳前後の社会人はまだ十代の頃にガンダムに感化された。ガンダムの世界は縦社会の軍隊組織で、不条理であろうが上の命令に従わなければ社会や組織の中で生きていくことができない。

 一方で今30歳前後の社会人が十代の頃に感化されたのが漫画「ワンピース」である。仲間を中心としたヨコ社会に生きて、自由を大切に考えるこの世代にとって、社会をとらえる枠組みは古い考え方とは相容れない。

 ヨコ社会を信奉する世代にとって「ワンピース」に登場する理想のリーダーは主人公のルフィそのものだ。その特長は3つある。

 まずビジョンは示すが無理強いや命令はしない。「海賊王にオレはなる!」「冒険をめざす」という感じで、この先、自分たちが何を目指してどう行動するのかをルフィははっきりと示す。しかし、仲間たちには何か訓練をしろとか、こう行動しろとか、具体的な命令を出すことは決してない。ビジョンに向けて一緒に進んでいくのが仲間だというのがルフィの一貫したスタンスだ。

 次に物事の善悪や、やるやらないの判断を自分ではっきりと考えて、その答えを自分で示す。しかもそれがゆるぎない。ルフィは敵が巨大だからここは黙っておこうとか、そういったずる賢い判断は一切しない。ついていく仲間は大変だと思うが、そのルフィのスタンスに仲間もしびれ、仕方ないと言いながらついていく。
 三番目に自分だけでは何もできない。だから仲間に頼るのがルフィのリーダーとしてのスタンスだ。船は操れない、料理はできない、けがや病気は治せない、壊れた船は修理できない。簡単に言えば戦う以外に何もできないルフィだからこそ、周囲の仲間にも自分の居場所ができる。言い換えれば、リーダーにできないことがあれば、支える仲間たちも自分の役割をそれぞれ実感できるのである。

 さて、われわれが生きる実社会ではルフィとその仲間たちのように自由でさわやかに生きていくことはたぶん難しい。大半の人間は大人になって実社会がわかるようになると、ルフィのようには生きることができないこともわかってくる。

 実社会にいる理想のリーダーに近い「ワンピース」の登場人物はルフィとは結構違う。

 実社会で言えば誰がリーダーとしてふさわしいだろうか?  異論は結構あると思うが、もし会社組織のリーダーだったとしたらという前提でピックアップすれば、まずは赤犬(サカズキ)と白ひげ(エドワード・ニューゲート)、そして少し変わったところでリク王(リクドルド3世)がリアルリーダーとしては適任ではないだろうか?

 赤犬は「ワンピース」に登場する最大組織・海軍の元帥で、海賊として要所要所で海軍を打ち破っていかない限り、ルフィたちの冒険は前に進まない。そのルフィから見れば赤犬はまさにラスボスといった存在にある。

 その海軍のトップ赤犬は、いわゆるマキャべリスト的なリーダーである。組織をあやつるための権謀術数に優れ、恐怖と力とほんのわずかなインセンティブとで部下たちを動かす。海軍組織の上にいけばいくほど、構成員には元帥の怖さが身にしみている。

 赤犬は「絶対正義」を掲げ、あらゆる海賊の芽を摘み取るという方針を打ち出すことで、組織の末端には考える暇を与えない。海軍こそが正義なのだから、細部は考えずに海賊を退治することだけを考えろというのが赤犬のやり方だ。