ヨコ社会が理想のワンピース世代も現実は赤犬か白ひげの選択しかない

『鈴木貴博』

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鈴木貴博(経営コンサルタント)

 数年前になるが漫画「ONE PIECE(ワンピース)」に関連して『ワンピース世代の反乱、ガンダム世代の憂鬱』という社会論を書いたことがある。私を含む50歳前後の社会人はまだ十代の頃にガンダムに感化された。ガンダムの世界は縦社会の軍隊組織で、不条理であろうが上の命令に従わなければ社会や組織の中で生きていくことができない。

 一方で今30歳前後の社会人が十代の頃に感化されたのが漫画「ワンピース」である。仲間を中心としたヨコ社会に生きて、自由を大切に考えるこの世代にとって、社会をとらえる枠組みは古い考え方とは相容れない。

 ヨコ社会を信奉する世代にとって「ワンピース」に登場する理想のリーダーは主人公のルフィそのものだ。その特長は3つある。

 まずビジョンは示すが無理強いや命令はしない。「海賊王にオレはなる!」「冒険をめざす」という感じで、この先、自分たちが何を目指してどう行動するのかをルフィははっきりと示す。しかし、仲間たちには何か訓練をしろとか、こう行動しろとか、具体的な命令を出すことは決してない。ビジョンに向けて一緒に進んでいくのが仲間だというのがルフィの一貫したスタンスだ。

 次に物事の善悪や、やるやらないの判断を自分ではっきりと考えて、その答えを自分で示す。しかもそれがゆるぎない。ルフィは敵が巨大だからここは黙っておこうとか、そういったずる賢い判断は一切しない。ついていく仲間は大変だと思うが、そのルフィのスタンスに仲間もしびれ、仕方ないと言いながらついていく。
(C)尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション
フジテレビ 土曜プレミアム『ワンピース エピソード オブ 東の海(イーストブルー)~ルフィと4人の仲間の大冒険!!~』8月26日(土)21時~
 三番目に自分だけでは何もできない。だから仲間に頼るのがルフィのリーダーとしてのスタンスだ。船は操れない、料理はできない、けがや病気は治せない、壊れた船は修理できない。簡単に言えば戦う以外に何もできないルフィだからこそ、周囲の仲間にも自分の居場所ができる。言い換えれば、リーダーにできないことがあれば、支える仲間たちも自分の役割をそれぞれ実感できるのである。

 さて、われわれが生きる実社会ではルフィとその仲間たちのように自由でさわやかに生きていくことはたぶん難しい。大半の人間は大人になって実社会がわかるようになると、ルフィのようには生きることができないこともわかってくる。

 実社会にいる理想のリーダーに近い「ワンピース」の登場人物はルフィとは結構違う。

 実社会で言えば誰がリーダーとしてふさわしいだろうか?  異論は結構あると思うが、もし会社組織のリーダーだったとしたらという前提でピックアップすれば、まずは赤犬(サカズキ)と白ひげ(エドワード・ニューゲート)、そして少し変わったところでリク王(リクドルド3世)がリアルリーダーとしては適任ではないだろうか?

 赤犬は「ワンピース」に登場する最大組織・海軍の元帥で、海賊として要所要所で海軍を打ち破っていかない限り、ルフィたちの冒険は前に進まない。そのルフィから見れば赤犬はまさにラスボスといった存在にある。

 その海軍のトップ赤犬は、いわゆるマキャべリスト的なリーダーである。組織をあやつるための権謀術数に優れ、恐怖と力とほんのわずかなインセンティブとで部下たちを動かす。海軍組織の上にいけばいくほど、構成員には元帥の怖さが身にしみている。

 赤犬は「絶対正義」を掲げ、あらゆる海賊の芽を摘み取るという方針を打ち出すことで、組織の末端には考える暇を与えない。海軍こそが正義なのだから、細部は考えずに海賊を退治することだけを考えろというのが赤犬のやり方だ。
リーダーの理想は「リク王」か

 大きな目的のために中くらい以下の犠牲はやむを得ないと考える赤犬のスタンスも、現実社会とよく合致している。具体的なエピソードで言えば避難民であふれた船の中に政府にとっての危険分子が1名いる可能性があると考えたら、躊躇(ちゅうちょ)せずに船を撃沈させるのが赤犬だ。

 危険分子1名が生き残ることでこの先どれだけの血が流されるかを考えたら、数百名の避難民の命を奪うことに迷いがない。ひどい話だが、グローバルな政治のリーダーは多かれ少なかれこのような判断、このような意思決定を下しているものだ。

 「ワンピース」に登場する海賊団の最大勢力のトップ白ひげは、豪快な性格からファンも多いキャラクターだが、リーダーとしての特徴が力と恐怖にあるという点では、実は赤犬とよく似ている。

 白ひげ海賊団は白ひげの直属部隊と、白ひげに敗れて傘下に加わった海賊たちからなる。過去の経緯では白ひげと戦い、一時は死を覚悟しながらも、白ひげに許されて船団に加わった海賊たちがたくさんいる。

 大きなファミリーのトップとして彼らを庇護する白ひげだが、近づけば近づくほど、その存在の恐ろしさに刃向かう気力はみじんも出てこない。少し引いて白ひげのリーダーシップを見つめると、映画『ゴッドファーザー』のドン・コルレオーネの愛と暴力に満ちたリーダーシップはかぶってみえる。
映画「ゴッド・ファーザー」の一場面
 そもそも「ワンピース」の舞台は大海賊時代。力が何よりもモノを言う時代であり、その時代において大部隊を動かすことができるリーダーシップは、本来は恐怖と力を基盤に置く以外にはないのであろう。

 ただ、例外もある。その代表がドレスローザの国民に愛される国王・リクドルド3世だとは言えないか。何よりも戦うことを嫌い、国同士の戦争には加担せず、理念で国を平和にたもとうとする。

 その結果、より強い悪に国を奪われて、本人も国民もたいへんなつらい日々を送る。最終的にルフィらによってドレスローザが解放されるのだが、ガレキの山と化した国土の中で、国民たちはリク王に「もう一度、リーダーになってくれ」と懇願する。結果は出せなくても、国民はリーダーとして慕ってきたのだ。

 現代社会は大海賊時代ではないが、それでも過去と比べてみれば混沌とした時代であることには間違いがない。実社会では海軍元帥・赤犬や海賊白ひげのようなリーダーたちが生き残っていく可能性が高い中で、理想としてはリク王のようなリーダーを求める気持ちが強い時代なのではないだろうか。

 そして何よりもルフィのように圧倒的なパワーとエネルギーで仲間を導いてくれる、夢のようなリーダーの出現が何よりも期待される時代なのかもしれない。

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