大きな目的のために中くらい以下の犠牲はやむを得ないと考える赤犬のスタンスも、現実社会とよく合致している。具体的なエピソードで言えば避難民であふれた船の中に政府にとっての危険分子が1名いる可能性があると考えたら、躊躇(ちゅうちょ)せずに船を撃沈させるのが赤犬だ。

 危険分子1名が生き残ることでこの先どれだけの血が流されるかを考えたら、数百名の避難民の命を奪うことに迷いがない。ひどい話だが、グローバルな政治のリーダーは多かれ少なかれこのような判断、このような意思決定を下しているものだ。

 「ワンピース」に登場する海賊団の最大勢力のトップ白ひげは、豪快な性格からファンも多いキャラクターだが、リーダーとしての特徴が力と恐怖にあるという点では、実は赤犬とよく似ている。

 白ひげ海賊団は白ひげの直属部隊と、白ひげに敗れて傘下に加わった海賊たちからなる。過去の経緯では白ひげと戦い、一時は死を覚悟しながらも、白ひげに許されて船団に加わった海賊たちがたくさんいる。

 大きなファミリーのトップとして彼らを庇護する白ひげだが、近づけば近づくほど、その存在の恐ろしさに刃向かう気力はみじんも出てこない。少し引いて白ひげのリーダーシップを見つめると、映画『ゴッドファーザー』のドン・コルレオーネの愛と暴力に満ちたリーダーシップはかぶってみえる。
映画「ゴッド・ファーザー」の一場面
映画「ゴッド・ファーザー」の一場面
 そもそも「ワンピース」の舞台は大海賊時代。力が何よりもモノを言う時代であり、その時代において大部隊を動かすことができるリーダーシップは、本来は恐怖と力を基盤に置く以外にはないのであろう。

 ただ、例外もある。その代表がドレスローザの国民に愛される国王・リクドルド3世だとは言えないか。何よりも戦うことを嫌い、国同士の戦争には加担せず、理念で国を平和にたもとうとする。

 その結果、より強い悪に国を奪われて、本人も国民もたいへんなつらい日々を送る。最終的にルフィらによってドレスローザが解放されるのだが、ガレキの山と化した国土の中で、国民たちはリク王に「もう一度、リーダーになってくれ」と懇願する。結果は出せなくても、国民はリーダーとして慕ってきたのだ。

 現代社会は大海賊時代ではないが、それでも過去と比べてみれば混沌とした時代であることには間違いがない。実社会では海軍元帥・赤犬や海賊白ひげのようなリーダーたちが生き残っていく可能性が高い中で、理想としてはリク王のようなリーダーを求める気持ちが強い時代なのではないだろうか。

 そして何よりもルフィのように圧倒的なパワーとエネルギーで仲間を導いてくれる、夢のようなリーダーの出現が何よりも期待される時代なのかもしれない。