加谷珪一(経済評論家)

 中国が提唱する現代版シルクロード構想「一帯一路」が徐々に動き始めている。5月に北京で初の国際会議が開催され、中国はインフラ投資基金の増額を表明した。安倍政権は一帯一路について、二階俊博幹事長を会議に派遣するなど積極姿勢を見せているが、同じく中国が提唱するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に関しては様子見の姿勢を続けている。一帯一路はまだその全体像が見えていないが、現時点における位置付けについて考察してみた。

会談を前に握手する自民党の二階幹事長(左)と中国の習近平国家主席=北京の釣魚台迎賓館(共同)
会談を前に握手する自民党の二階幹事長(左)と中国の習近平国家主席=北京の釣魚台迎賓館(共同)
 まずは、一帯一路とはどのような構想なのか再整理してみよう。一帯一路は、中国の習近平国家主席が2013年に提唱した中国と欧州を結ぶ巨大経済圏構想である。中国から欧州に至る経路は主に2つが想定されており、ひとつは陸路を使って中欧アジアを経由し、欧州に続くルートで、中国ではこれを「一帯」と称している。

 もう一つは海路で南シナ海からインド洋を通り、欧州に向かうルートで、こちらは「一路」とよばれている。両者を合わせて一帯一路ということなのだが、当然のことながら、一連の構想は、かつて東洋と西洋を結ぶ重要な交易路であったシルクロードをイメージしたものとなっている。

 沿線の国は70カ国に及び、中国は一帯一路に沿って、インフラ投資や貿易を活発化することによって自国経済圏を拡大しようとしている。

 中国は似たような構想としてAIIBも提唱している。AIIBは、中国主導の地域開発金融機関で、米国主導で作られたアジア太平洋地域における開発金融機関であるアジア開発銀行に対抗して作られた。アジア各国や欧州各国が参加しているが、日本と米国はガバナンスが不十分といった理由から参加を保留している。

 中国がどのように説明しようが、両構想とも中国の覇権を強化するための枠組みであることは間違いないのだが、安倍政権はAIIBに対しては慎重姿勢を示す一方、一帯一路については積極的だ。このスタンスの違いは一帯一路とAIIBの質的な違いをそのまま表しているといってよい。

 安倍政権が一帯一路に対して積極的なのは、一帯一路は、インフラ投資の活性化による景気対策という面が大きく、日本企業にとってうま味があるというのが最大の理由と考えられる。

 確かにシルクロードという誰もが知る歴史的テーマを前面に押し出した一帯一路構想は、大きな政治的インパクトをもたらすかもしれない。だが、地政学的なリアリズムに徹した場合、一帯一路構想の重要度はAIIBよりも低い。その理由は、海上交通網が整備された現代においては、陸路の輸送力は経済的に見てあまりにも貧弱だからである。

 大航海時代以前であれば、ユーラシア大陸における物資の移動は陸路に頼るしかなく、シルクロードはまさに交易の拠点であった。だが近代以降は貿易の中心は海上交通路となり、その図式は今も変わっていない。

 中国は現在、世界の工場としてあらゆる工業製品を米国や日本、欧州に輸出しているが、これらの大半はコンテナ船など使って海上輸送される。電子部品など軽量で即納が必要なものは空路で輸送されるケースもあるが割合は少ない。その理由は、船の経済性が突出していることによる。

 条件によって輸送コストは異なるので単純な比較は難しいが、筆者が各種データから試算したところでは、1トンの荷物を1000キロ輸送するコストは、船が約1万円 鉄道は1万2千円、トラックは2万5千円、航空機は15万円になる。船は港があればすぐに運用が可能であり、鉄道や道路という長大なインフラを建設する必要がない。トータルすると船による輸送は圧倒的な経済力を持つことになる。