「麦わらの一味」は理想のようで、実は若者の個性を奪う危険な組織

『常見陽平』

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常見陽平(千葉商科大学国際教養学部専任講師)

 やっぱり苦手である。「週刊少年ジャンプ」(集英社)の看板作品である『ONE PIECE(ワンピース)』だ。この作品、理解はできるが、まったく共感できないのである。

 この作品が良い商品であることは間違いない。なんせ、約20年にわたって売れ続けているのである。TVアニメ化、映画化されたのは言うまでもなく、関連商品もよく売れている。海外にも広がっているという。ビジネスの世界においては、良い商品とは、売れている商品である。激しく売れているという点で、ワンピースは素晴らしい。

 売れる理由もよく分かる。海賊という設定、「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」を求めて旅をするという世界観、ルックスがよくキャラ立ちしていてそれぞれが人生のビジョンを持っている登場人物たち、痛快な戦闘シーン、笑って泣ける人間ドラマ。深く作りこまれている作品だと思う。しかも、ずっと作品を続けやすいフォーマットになっている。前述したように、TV化、映画化、商品化、グローバル化により、「大ワンピース経済圏」が作られていく。売れるスパイラルになっているのである。この、売れる仕組み作りができている点においても素晴らしい。
2012年3月、東京・六本木で行われた「ONE PIECE展」に出展された単行本第61巻の表紙を再現した模型
 ただ、うがった見方をするならば、全てが確信犯的で、まるで勉強熱心な若手社員がさまざまなビジネス書を読みこんで書き上げた企画書を読んでいるような感覚に襲われる。同作品はちょうど、掲載誌である週刊少年ジャンプが発行部数1位という指標で講談社の「週刊少年マガジン」に負けた後に連載が始まった。この作品の貢献もあり、部数1位を奪還できた。ただ、このような背景からも考えると、同作品は『ドラゴンボール』終了後のプロジェクトX、プロダクトXだったようにも思えてくる。

 週刊少年ジャンプに連載されている漫画の悪しき部分かとも思う。以前、漫画家を描いた作品『バクマン。』の映画版を見た。ジャンプとそこで描く漫画家、支える編集者を描いた作品だとも言える。同誌の特徴は、新人漫画家を発掘して専属にすること、編集者が作品に関わること、何よりも読者はがきによる人気ランキングを厳格に運用することが特徴である。
若者の理想どころか「搾取組織」

 『バクマン。』はある意味、ジャンプの自己批判、自らのパロディー化が面白いのだが、そしてこれ自体がフィクションではあるが、よくも悪くも「強い商品」を作りこもうという同誌の体質がよく分かるものである。中でもワンピースには何か、こう「作品」よりも「商品」の臭いを感じてしまうのだ。もちろん、エンタテインメントと芸術は完全にイコールなわけがなく、このように商業的であるがゆえに手軽に楽しむことができるわけであるが。

 決定的に苦手なのは、ワンピースに登場するルフィとその仲間たちである。若者たちの中には、これを理想の組織だという人たちがいる。皆が夢を持ち、個性を発揮し、リスペクトしあっている。気持ちはよく分かるが、世の中のたいていの組織は、こんなに楽しくはないものである。いや、漫画の世界とは、現実社会であり得ないことを描くという場でもあり、人々の願望という意味では別によい。しかし、組織はこうあるべきだと盲目的に信じていたとしたら、なんて頭の中がお花畑なんだろうと思う。

 もっとも、ベンチャー企業などでは、ワンピースをベンチマークして組織運営している企業が存在する。実際に公言している場合や、そうしないまでも裏テーマとして掲げているのだ。社員がビジョンを語り、個性を尊重する、仲間を大切にする、と。ただ、釈迦に説法ではあるが、それは別に社員を尊重しているようで、人材マネジメントの取り組みに他ならない。大事にされているようで、企業の目標達成、永続的な価値の創造と利益の追求のために酷使、搾取されているだけである。もちろん、企業に楽しくだまされるための演出だとも言えるし、大事にされていることを装うことで労働者は慰められるのだろうが。

 組織は別に、あなたのために存在しない。本来、不愉快なものである。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)という本に記したが、私はむしろ『機動戦士ガンダム』のホワイトベースの方が現実の日本企業に近いと思っている。なんとなく巻き込まれ、戸惑いつつも、組織に順応し、当事者意識を発揮し、居場所を見つけていくのである。
 このワンピースという漫画が描いている組織は若者の理想のようで、夢、個性尊重による若者搾取組織だと私は捉えている。夢や仲間という言葉は美しいが、「絆」「愛」という言葉同様に、安っぽく消費されているのではないか。商品として楽しむのは結構だが、厳しい現実こそ直視したい。

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