『バクマン。』はある意味、ジャンプの自己批判、自らのパロディー化が面白いのだが、そしてこれ自体がフィクションではあるが、よくも悪くも「強い商品」を作りこもうという同誌の体質がよく分かるものである。中でもワンピースには何か、こう「作品」よりも「商品」の臭いを感じてしまうのだ。もちろん、エンタテインメントと芸術は完全にイコールなわけがなく、このように商業的であるがゆえに手軽に楽しむことができるわけであるが。

 決定的に苦手なのは、ワンピースに登場するルフィとその仲間たちである。若者たちの中には、これを理想の組織だという人たちがいる。皆が夢を持ち、個性を発揮し、リスペクトしあっている。気持ちはよく分かるが、世の中のたいていの組織は、こんなに楽しくはないものである。いや、漫画の世界とは、現実社会であり得ないことを描くという場でもあり、人々の願望という意味では別によい。しかし、組織はこうあるべきだと盲目的に信じていたとしたら、なんて頭の中がお花畑なんだろうと思う。

 もっとも、ベンチャー企業などでは、ワンピースをベンチマークして組織運営している企業が存在する。実際に公言している場合や、そうしないまでも裏テーマとして掲げているのだ。社員がビジョンを語り、個性を尊重する、仲間を大切にする、と。ただ、釈迦に説法ではあるが、それは別に社員を尊重しているようで、人材マネジメントの取り組みに他ならない。大事にされているようで、企業の目標達成、永続的な価値の創造と利益の追求のために酷使、搾取されているだけである。もちろん、企業に楽しくだまされるための演出だとも言えるし、大事にされていることを装うことで労働者は慰められるのだろうが。

 組織は別に、あなたのために存在しない。本来、不愉快なものである。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)という本に記したが、私はむしろ『機動戦士ガンダム』のホワイトベースの方が現実の日本企業に近いと思っている。なんとなく巻き込まれ、戸惑いつつも、組織に順応し、当事者意識を発揮し、居場所を見つけていくのである。
 このワンピースという漫画が描いている組織は若者の理想のようで、夢、個性尊重による若者搾取組織だと私は捉えている。夢や仲間という言葉は美しいが、「絆」「愛」という言葉同様に、安っぽく消費されているのではないか。商品として楽しむのは結構だが、厳しい現実こそ直視したい。