安田雪(関西大社会学部教授)

 『ONE PIECE(ワンピース)』を題材に、最近のリーダーや組織について3つのポイントを語ってみたい。第1は「『バカ』と言える力」、第2は「スピーチ・アクト」、第3は「喪失の代償」である。

 まずは、ワンピースについておさらいをしよう。ワンピースは、1997年から「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載が開始され、2017年7月現在、85巻までの単行本を出版、累計発行部数は3億5000万部を超えている。小学生から大人まで幅広い支持を得ており、「国民的漫画」と称されることもある。

 紹介するまでもなく、主人公ルフィが海賊王を目指し、仲間とともにいくつもの冒険をしながら成長していく物語である。テレビ、映画、果ては歌舞伎にまで広がり、ファンはストーリーに一喜一憂するわけである。
 「所詮、少年漫画の世界」「私には関係のない漫画」と考える方もおられるだろう。だが、ビジネス社会を担う大人にとっても、ワンピースから学ぶべきことは多いと私は考えている。現に、小学生時代にワンピースを愛読していた子供たちは、既に社会人として働き始めており、彼らはルフィ率いる海賊団「麦わらの一味」のような仲間のあり方を理想としているような世代でもある。

 前回の衆院選では、当選こそしなかったが「ワンピースのような政治をしよう」と訴え、自民党から出馬した候補者さえいた。ともあれ、ワンピースという世界、ひいては主人公らのあり方にある種の魅力があるようだ。「ワンピース世代」とともに働き、生きていく私たちには、共感するか否かはさておき、まずは彼らを理解する必要がある。

 ルフィには、仲間をまとめ、場合によっては敵さえも味方に変えてしまう魅力とリーダーシップがある。その源泉はやはり言葉と行為である。ルフィの「仲間力」やリーダーシップについては拙著で既に言及しているので、今回はそれらとは違った視点から、ワンピースにおけるリーダーシップについて話をしたい。まずは「バカ」と言える力についてである。

 パワハラやアカハラの訴えや、モンスターペアレントなどが跋扈(ばっこ)し、「物言えば唇寒し」この時代だが、意外なことに、ワンピースの主要人物のセリフでは「バカ」が多用されている。ワンピースの主要人物たちは、かなりの頻度で、周囲の人々に「バカ」と言っているということである。これは、ゼミの学生がワンピースの主要登場人物のうち3人、すなわち主人公のルフィ、魅力的な女性航海士であるナミ、世界一の剣豪をめざすゾロを選び、そのセリフをテキストで書き出し、彼らの使う言葉の特徴を分析してくれた結果である。