ルフィは「海賊王におれはなる!」と宣言して冒険の船出をするのだが、物語が進むにつれて、いつのまにか行為が海賊王と周囲が見なす(すなわち海賊としての懸賞金が桁外れに上がっていく)にふさわしくなっていく。ルフィは海賊王なのではなく、海賊王になると宣言することで、自らが海賊王としての行動をとっているのである。これは、スピーチ・アクトの典型的な一例である。すなわち、自分が何かを宣言することで、自分がそのものになる、周囲を巻き込みながらそういう状態を生成できるということである。
 リーダーのありよう、組織のありようとして、自分が何者か、何者でありたいのか、どのような状態を望むのかを、明確に言語化することで他者を巻き込み、物事を実現させていく。宣言から始め、生き延び、責任を取るというありかたは、今の時代に適合的なリーダーの姿だと思う。

 第3は、喪失の代償である。これはセリフの計量的な分析とは関係はなく、ワンピースに多く登場する、主人公らの「過去の記憶」についてである。

 ワンピースには、大切な人を喪う光景が多々出てくる。最も象徴的なのが、ルフィにとっての最愛の兄エースの喪失である。自暴自棄になったり後ろ向きになったり、心身ともに苦悩した後、ルフィはついに立ち直る。だが、立ち直った後に、喪失の代償にルフィの中では、幼かったころに兄と過ごした日々が、金色の輝きを放ち続ける。

 ナミであれゾロであれ、それぞれが大切な人と死別し、その人々との記憶を自分の中に閉じ込め、その記憶をエネルギーとして自己研鑽(けんさん)をし、前向きに日々を生きている。過去に対する恨みや憎しみは、根本的な問題を何も解決しない。失った人とのかけがえのない時間や思い出は、自己のなかで幸福の糧となり、生きることを肯定し、「なお生きよ」「なお先へ進め」と呼びかけてくる。喪失という大きな代償のかわりに、かつての幸福の記憶が人を支えるのである。

 失敗や敗走、そして喪失を体験したリーダーは強い。リーダーに限らずとも、喪失を知った人々は、笑えることの喜びを知り、大きく成長する。そして、いつか、他者とともに夢をかなえ、他者を癒す力さえ持つに至るのだろう。

 関心を持ってくださった方は、拙著『ルフィの仲間力』『ルフィと白ひげ-信頼される人の条件』(ともにアスコム)をお読みいただければ幸いである。