杉江義浩(ジャーナリスト)

 NHKがテレビを所有せずにネットで番組を受信する世帯にも、ネット受信料を新設するという中間答申案を6月に取りまとめ、それに対する批判や議論が高まっています。

 議論を整理すると、全く異なる二つの論点が、ごっちゃ混ぜになって語られていることに気づきました。一つはNHKの番組を受信できる世帯に義務化されている、受信料制度そのものの是非を問う論点。もう一つは高度に進化したデジタル環境において、放送と通信をどうすみ分けるか、あるいはどう融合するかという論点です。この二つの論点を混同しないように切り分け、順に論じていきたいと思います。

 一つ目の論点、受信料制度については、私は確固たる信念があります。受信料制度は必要不可欠です。NHKが受信料で支えられているべき最大の、そして唯一の理由は「国家権力からの独立」です。NHKのクライアントは、時の政権ではなく、あくまで視聴者一人一人であるべきです。常に視聴者を利する方向で、番組やニュースは編集されなければいけません。政府を利する方向で編集されてしまったら、それは国営放送です。

 NHKの予算は税金でまかなって国営放送にしてしまえばよい、などと軽々しく口にする人には、国家権力が放送を牛耳る恐ろしさについて、想像力が欠如していると言わざるを得ません。ミサイルの発射実験をするたびに、笑顔で金正恩労働党委員長をたたえる、朝鮮中央テレビの女性キャスターの映像を思い浮かべてください。国営放送になるということは、あのような権力者の宣伝機関になり果てるということを意味しています。それを避けるために受信料制度があるのです。

 では、実際にNHK職員が制作現場で、国営放送ではなく公共放送であることを十分に自覚し、政権に忖度(そんたく)することなく視聴者目線で日々の仕事に従事しているのか、と問われたら、私は力強く首を縦にふることは難しい気もします。NHKの役職員それぞれの、ジャーナリストとしての矜持(きょうじ)に期待することしかできないからです。NHKが構造的に、時の政権に影響を受けやすい脆弱(ぜいじゃく)性を持った組織であることは、iRONNAの別の記事に書いたとおりです。
記者会見で質問に答えるNHKの上田良一会長=東京都渋谷区(宮川浩和撮影)
記者会見で質問に答えるNHKの上田良一会長=東京都渋谷区(宮川浩和撮影)
 それでも私たちは、決して安くはない受信料をNHKに支払わなければなりません。さすがに最近は少なくなりましたが、今述べたような「編集権の独立」という概念ではなく、もっと単純に、民放やネットは無料なのに、なぜNHKだけが受信料を取るのだ、と批判する人も昔はけっこういました。そういう人は「情報には対価が必要」という基本的なことを理解していないのです。

 私だって支払わなくてよいのなら「WOWOW」を無料で見たいし、大手新聞社のデジタル版も無料で購読したいです。しかし、情報には対価が必要だと理解しているから、納得して支払っているのです。この話をすると、WOWOWには加入するかしないかの選択肢があるのに、なぜNHKには選択肢がないのだ、と必ず聞かれます。