私は世の中には視聴者にとって「見たい番組」と「見るべき番組」があると思っています。視聴者が見たい番組のみを集めたのがWOWOWです。名作ドラマやスポーツ中継、有名アーティストのライブなど、徹底して「見たい番組」を追求しています。一方、NHKは「見るべき番組」も放送します。

 学校放送など教育番組も含まれるかもしれません。国会中継や政見放送を面白いと思って見る人は少ないでしょう。でもこれらは国民の知る権利として「見るべき番組」です。いざというときに役立つ情報は、広くあまねく提供されるべきで、それを担うのがNHKの重要な役割の一つではないでしょうか。

 「ぐらりときたらNHK」とよく言われますが、地震を感じたときに、思わずNHKの総合テレビをつけて、地震の規模と震源地を確かめた経験はありませんか。NHKには公共放送としての使命があります。手話ニュースも、乳幼児と母親のための番組も放送します。こういった公共の福祉に寄与する放送は、いわゆる商業目的の「PayTV」ではできません。そもそもの目的が違うのですから、NHKと動画配信サービスを比較しても意味がありません。

 動画配信サービスの話が出たところで、二つ目の論点である、高度デジタル社会における、放送と通信の関係についてお話ししたいと思います。

 今回の議論の中では、テレビを所有せずにネットのみでテレビ番組を視聴する、という状況をどう捉えるかも論点になっています。ですから今は仮に地上波やBSで視聴する現状のNHK受信料制度には納得している、という前提で話を進めさせてください。
※写真はイメージ
※写真はイメージ
 もともと放送と通信は相反する概念です。放送とは一カ所から不特定多数に向かって拡散する情報伝達です。原点は巨大なスピーカーだといえます。区市町村の防災放送を、あるいは小中学で各教室や運動場に響き渡る校内放送を思い浮かべてください。秘密はなく、誰もがいや応なく聞かされます。

 一方、通信とは個人から個人に向けた、非公開で秘密を原則とする情報伝達です。原点は郵便です。親書の秘密や通信の秘密が守られ、電話やインターネットも通信に含まれます。不特定多数に向けて公開される放送とは、その理念からして通信が融合することはないと、長らく考えられてきました。しかし、通信網の量的変化が、質的変化をもたらして、新しい時代に入ったようです。

 ご存じのようにテレビの放送はこれまで、地上波アナログ、BS、地上波デジタルといった具合に、主に電波の使い方や伝送技術に関して進化してきました。電波という自然界において物理的に限りのある資源を、ラジオやテレビだけではなく警察無線や船舶無線、携帯電話、Wi-Fiなどで周波数を分け合って、いかに効率的に配分するか、が大きなテーマでした。