問題は伝送技術が、限られた電波の配分、という枠組みを超えて、増やしたければいくらでも増やせる、インターネットの光ファイバー網に乗ったとき、それは通信なのか放送なのかという論点です。もし放送と定義されるなら、その時は放送法が適用されることになりますから、熟慮が必要です。それはもはや放送であると定義してよいのではないか。というのが今の私の考えです。

 技術的には、ハイビジョンのテレビ番組を、パソコンやスマホにリアルタイム配信することは難しくありません。個人的にはスマホの小さい画面でサッカーの試合を見る気にはなれませんが、小さい画面でも十分楽しめる、という人もいるでしょう。民放の番組をスマホで見るアプリも既に出回っていますから、たっぷりコマーシャルを見せられるのさえ我慢すれば、番組を楽しむことは今でもできます。
※写真はイメージ
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 パソコンに至っては、私の場合27インチの5K解像度のモニターを使っていますから、フルHDの番組をオンデマンドで見ると、テレビより鮮明かと思えるほどです。これでテレビの放送番組をリアルタイムで見られるようになるのなら、テレビなんか必要ない、と考える人が続出することも、あるいは考えられます。

 そこで受信料収入で成り立っているNHKが、テレビではなくネットで放送を見る人たちからも受信料を得る仕組みを作っておこう、と先回りして中間答申案を出したのも理解できなくはありません。

 ただし、既存のテレビでの受信が、画面サイズに多少の差こそあれ、テレビの機種にかかわらずほぼ一定の品質で誰もが簡単に放送を楽しめるのに対して、ネット経由の受信はインターネット環境やデバイスの種類によって、品質に極端な違いが生じることは考慮しなくてはならない課題です。
 
 小さなスマホでしか番組を見られない人が、高解像度大画面のモニターで番組を見ている人と、同じように受信料を取られるとしたら、納得がいかないでしょう。放送番組はある程度大きな画面サイズのテレビで視聴することを前提に作られていますから、番組中の小さな字幕などはスマホでは読み取れません。これではNHKの放送として定義するには不完全だということになります。

 また、放送というからには受信者側に手間をかけさせてはいけません。起動に時間がかかったり、デスクトップ画面が出たり、アプリケーションを選択したり、といったお年寄りに難しい操作性ではだめです。自治体からの防災放送のように、誰もがスイッチ一つでパッと番組を受信できなければ、放送とは定義できません。

 私自身はネット経由でリアルタイムのテレビが見られるようになったとしても、テレビ番組はパソコン画面上ではなく、あくまでもテレビ受像機で見たいと思っています。なぜなら気持ちを切り替えたいからです。やりかけの仕事や、SNSの画面などさまざまな情報であふれているパソコンの画面では、純粋にテレビ番組を楽しめる気分には、とてもなれそうにありません。

 Apple社の創設者、故スティーブ・ジョブズ氏は、テレビとコンピューターの画面の違いについて、こう述べています。
 「テレビを見るとき、人間の脳はリラックスする。コンピュータースクリーンを見るとき、人間の脳は覚醒する」

 まさにその通りだと思います。技術的に放送と通信の垣根が取り払われても、人間の脳はテレビとパソコンに異なる情報を求めています。ということは、テレビはテレビの形態のまま4K、8Kへと進化すると考えられます。