小黒一正(法政大経済学部教授)

 思想や技術革新は世界を動かす。第4次産業革命の成否を最初に握るのは「データ」であり、情報通信技術(ICT)革命の次は「データ産業革命」という認識が、世界トップ層の中でひそかに浸透しつつある。この本丸は金融、中でも仮想通貨やデジタル通貨であり、米経済誌フォーブスでは「どこかの中央銀行が5年以内にデジタル通貨を実現するだろう」という予測も登場している。

 というのは、データ産業革命の行き着く先に見えているのは、次のような世界であるからである。まず、一番上に人工知能(AI)という「脳」があり、その下にはハイテク機器にモノのインターネット(IoT)などが組み込まれ、そこが人間でいうと神経細胞のようになる。当然、この神経細胞には、インターネットで張り巡らされた既存の情報ネットワークやそこから生成されるさまざまな情報なども含まれ、これらの情報(ビッグデータ)は特定の場所にプールされる。

 ただ、ビッグデータも頭脳がなければ意味がなく、人間が目指す目的を設定・制御しつつ、人工知能が解析しながら深層学習(ディープラーニング)で価値を見いだしていく。この意味で、ビッグデータは人工知能が進化するために必要不可欠な「食糧」に相当し、経済学的には「資産」でもあり、さまざまなデータを融合することで莫大(ばくだい)な価値を創造できる。

 すなわち、データ産業革命の本丸は「金融」、中でも、ネットワークで結んだ複数のコンピューターが取引を記録するブロックチェーン技術を活用した仮想通貨といっても過言ではなく、ITを使った金融サービス、フィンテックはその一部でしかない。理由は単純で、われわれが経済活動で何か取引を行ったときに必ず動くものは「マネー」であり、仮想通貨が経済取引の裏側で生成するビッグデータは「スーパー・ビッグデータ」であるからである。

 このような状況の中、スウェーデンの中央銀行、リクスバンク副総裁のスキングスレー氏がeクローナと呼ばれるデジタル通貨の発行に向けて本格的な検討を開始することを講演で明らかにした。

 また、英国の中央銀行、イングランド銀行(BOE)も、デジタル通貨に関する興味深い論文を公表した。この論文では、米国経済をモデルに分析を行っており、対国内総生産(GDP)比で30%のデジタル通貨を導入すると、金融取引のコストなどが抑制でき、定常状態のGDPが3%押し上げられる可能性などを明らかにしている。GDPで500兆円の規模を有する日本でいえば、15兆円の経済効果に相当する。

 さらに最近では、インド準備銀行(中央銀行、RBI)が実証実験を行った後、デジタル・ルピーの発行を推奨する報告書を発表した。インドのプラサド電子・情報技術相も「電子決済や電子行政を含む同国の「デジタル経済の規模が3-4年で倍増し1兆ドル(約110兆円)に達する」との見方」(日本経済新聞2017年7月5日朝刊)を示している。中国もデジタル通貨の発行を検討しているとの噂もある。