菅野完(著述家)

 「刑事問題となっている案件を議場で聞くなどという議会制民主主義を逸脱するような議員には、多少の疑問の念をもっている」

 7月10日開催された大阪府議会本会議に参考人として招致された森友学園・籠池泰典前理事長は、演壇の上からこう言い放った。

 籠池氏からの「教育的指導」を受けたのは、「大阪維新の会」の笹川理府議。この発言の後も、「特別支援児助成金の不正受給」など、地検特捜部の捜査対象となっている事案について笹川府議が質問するたび籠池氏は「同じことを何度も言わせないでいただきたい。時間の無駄です」と「教育的指導」を繰り返した。その姿はまるで出来の悪い生徒を教壇から𠮟り飛ばす老練な教師のようだ。

 「でも実際、籠池はんの言うことは正論やわな。議会で刑事事件を議論したかてしゃーないがな。府議会やねんから府の行政を検証せんとな。しかしなんやあの維新の若い子は。出来が悪いにも程があるやろ」

 府議会本会議の様子をネット中継でみていた在阪メディアOBが、半ばあきれるように嘆息する。長年大阪府政を取材してきた彼の目には、今回の籠池氏参考人招致は「府議会の劣化の象徴」のように見えたのだという。

大阪地検に向け自宅を出る籠池泰典前理事長
=7月27日、大阪府豊中市(山田哲司撮影)
大阪地検に向け自宅を出る籠池泰典前理事長 =7月27日、大阪府豊中市(山田哲司撮影)
 「そやけど、最近の籠池はん、サヨクみたいやな。180度の変わりようや。あの人の口から『議会制民主主義』なんて言葉がでるとはなぁ」

 刑事事件の容疑内容を議会で議論しても意味はないとの当然の指摘をとらまえて、「サヨク」呼ばわりとはいささか恐れ入るが、確かにこの老ジャーナリストの指摘どおり「最近、籠池氏が変わった」とは言えるだろう。

 都議選最終日。籠池氏は安倍首相の街頭演説が行われるJR秋葉原駅前に姿を現した。「安倍さんに100万円を返しに来た」というのである。駅前ロータリーに蝟集(いしゅう)する聴衆の最前列に陣取るが、あえなく警察によって排除されてしまう。それでも籠池氏はなんとか安倍首相に食らいつこうと、100万円の札束を振り回しつつ、「嘘をつくのをやめろー!」「本当のことを言えー!」とヤジを飛ばし続けた。きっと安倍首相からみれば、あの日の籠池氏も、あの日あの場で「安倍やめろ」コールを叫び続けたプロテスターたちと同じ、「こんな人たち」の一人ということになるのだろう。

 確かに籠池氏は変わった。今年の2月に森友事件が世間を騒がし始めた頃に流布された「ファナティックな愛国者」「狂信的な安倍政権支持者」としての要素は、最近の籠池氏の言動からは一切うかがい知ることはできない。議場で大阪維新の若い議員を𠮟り飛ばし、路上でプロテスターのように安倍晋三にヤジを飛ばす姿は、あの頃と180度路線変更したように見える。

 だが、当の本人の認識はいささか違うようだ。

 「第一次安倍政権のころのような、鮮烈さはもう安倍さんにない。あの頃はよかった。教育基本法の改正なんぞ、歴史的偉業ともいえるやろう。そやけどあの頃の安倍さんはもういない。いまあるのは、ただ単に地位に恋々としがみつく姿だけや。安倍さんは変わった」

 かつてインタビューで安倍政権に対する見解を聞かれた際、籠池氏はこう証言している。どうやら、籠池氏本人は「変わったのは自分ではない。安倍晋三であり、その周囲だ」という認識をもっているようだ。