医療事故調査制度とは、医療機関で診療行為に関連した予期せぬ死亡事故が起きた際に使われる制度。医療機関は第三者機関である「医療事故調査・支援センター」(通称・医療事故調)に事故を報告し、院内調査を開始する。院内調査の結果は第三者機関と遺族に報告され、遺族が結果に納得できない場合は第三者機関に調査を求めることができる。事故が起きた際の院内調査はこれまでも行われてきたが、その内容を報告し、調査するための第三者機関が設立されるのは初めてだ。

来年10月から始まる「医療事故調査制度」。制度のあり方について議論が白熱している
 医療事故調設立の背景には、2000年前後に全国で医療過誤が相次ぎ、医師が逮捕されるなど司法機関による「個人の責任追及」が医療崩壊を招く事態に直面したことがある。

 1999年2月、東京都立広尾病院で手術を受けた女性が誤って消毒液を点滴され死亡。この事件の直前には横浜市立医大で患者取り違え事故が起きており、国民の医療不信は高まった。医療訴訟が増え、2006年には福島県立大野病院の産科医が逮捕される事件も起きた。産科医は裁判で無罪が確定したが、医療行為に伴うリスクを誰が評価し、判断するのかという根本的な課題について、現行の法執行体制に対する不信が、報道のあり方も含め、医療側には深く広がっていった。その結果は、産科など訴訟リスクが高い診療科のなり手が少なくなり、妊婦のたらい回しなどの事件につながることにもなった。

 警察の介入に不信を持つ医療者側の求めに応じて、厚労省は第三者による医療事故調査機関の設立を検討。一度は法案大綱案をまとめたが、「悪質な事例は警察に通報する」としたことに医療界が猛反発し頓挫している。しかし、第三者による調査を求める医療事故被害者らの声は根強く、その後も検討が重ねられ、事故調制度の枠組みを定めた改正医療法が今年の通常国会で成立したのである。

 ただ、この制度がどのように運用されるのかなど具体的なことは厚生労働省令や指針で定めることになっており、現在も厚労省の検討会で議論が進められている。

 検討会は今年度中に結論をまとめる予定だが、もっとも大きな論点は、届け出の対象となる「予期せぬ死亡」の定義である。実際の運用では、遺族が考える予期しない死亡と、医療者側が考える予期しない死亡が異なることも考えられる。

 また、第三者機関の構成をどうするか、再発防止策をどのように示して共有するのか、遺族に調査結果をどこまで開示するのかなどについても意見が分かれている。検討会の複数のメンバーからは「調査結果が民事訴訟や警察の捜査の証拠に使われたら、責任追及を恐れて誰も本当の証言をしなくなるのではないか」との懸念の声もあがっている。

 医療行為は専門性が高く複雑で、目の前の症例は1件ずつ異なる。原因を特定することが難しい事例も多いだろう。一方で、何が起きたのか、なぜそうなったのかを明確にすることは、身近な人の死を受け止める家族にとっても大きな意味を持つ。「第三者機関」を代理法廷にするのではなく、目の前の死を未来の医療の安全に繋げる視点が、具体的なシステム設計段階に入ったいまこそ求められている。(道丸摩耶)