竹内純子(国際環境経済研究所理事)

 原子力技術利用に関するさまざまな事業の中でも、特に面倒くさくてややこしくて、政治的にしんどいのが放射性廃棄物の問題である。原子力発電所を稼働させれば必ず出る廃棄物について、処分の方法や場所も決めずに発電事業を始めたことがそもそも無責任だという批判は隙のない正論であり、原子力は技術として不完全であるとの揶揄(やゆ)を込めた「トイレなきマンション」というレッテルに長年甘んじてきた。

 確かに日本で商業用原子力発電所が稼働を始めて既に半世紀がたつというのに、いまだに「ごみ問題」の解決にめどがついていないのでは、先人たちに恨み言の一つも言いたくなる。しかし、批判していても既に発生したものが目の前から消えることはないのであり、議論を進めないのであれば、われわれも後世に責任を先送りすることになる。

 政府は7月28日、この議論を前に進めるため、地層処分に関する適性度合いを示す地図「科学的特性マップ」を公表した。しかしこのマップは、一定の要件・基準に従って、「安全な地層処分が成立すると確認できる可能性」が相対的に高いか低いかを分類するにすぎない。今回のマップ公表後、土地確保の容易性などの社会科学的観点をどう扱うかの議論を深め、さらに具体的な候補地点が見つかってから20年程度かけて文献調査、概要調査、精密調査を行って初めて処分地の選定に至ることとなる。

 マップは、最終処分施設建設地の選定に向けた長い長い道のりの第一歩でしかないが、自治体からの応募を待つという受け身の姿勢から転換し、政府が議論を前進させようとしていることは評価すべきであろう。この問題は政治的アセット(資産)をすり減らすことはあっても、追い風になることはない。その政治的リスクの高さは、2007年に高知県東洋町が最終処分に向けた調査受け入れに応募し、町長選を経て取り下げた経緯を見ても明らかであるし、東京電力福島第一原発事故を経てその政治的逆風はさらに強まっている。

 処分地選定の議論は時間的な余裕があることも作用して、先送りされることを繰り返してきた。使用済み燃料が再処理され、その過程で出た高レベル放射性廃液がガラス固化体に加工されるわけだが、そのガラス固化体は地層処分される前に地上の中間貯蔵施設で30年から50年保管される。時間的な余裕があることは、政策全体のパッケージを考える上で非常に重要であるが、その「きょう明日でなくとも」という甘えが関係者の覚悟を妨げてきたことは否めないだろう。
(経済産業省・資源エネルギー庁)
(経済産業省・資源エネルギー庁)
 今回、当初予定よりだいぶ遅れたとはいえ、政府がマップの提示に踏み切ったことをきっかけに建設的な議論を進めていかねばならない。

 しかし、そのためには何が必要なのであろうか。メディアでは、マップの提示を受けて、「市民の不安が募る」あるいは「今後『可能性が高い地域』の絞り込みに相当苦慮するだろう」という否定的な論調が多く寄せられているが、マップの提示を契機としてこれから議論を進めていくために必要な条件とは何かを考えてみたい。