倉山満(憲政史家)


 なぜ、総理大臣が靖国神社に参拝できないのか。
 創価学会が許してくれないからである。

 現実において「靖国」は政治問題と化している。内政においてのみならず、国際問題でもある。現実における力関係を見ずして、事の本質は見えないであろう。

 安倍晋三首相は、政権に返り咲いて以降、長年の政治問題と化していた靖国問題の収拾を図っていた。すなわち、三木武夫内閣で「八月十五日」に参拝することが政治行事となってしまったが、それまでの歴代首相は春秋の例大祭に参拝していた。八月十五日は大東亜戦争の戦没者を祀る日だが、例大祭ではすべての戦いにおける戦没者を慰霊する。第二次安倍内閣の当初の勢いならば可能だっただろう。
多くの参拝者が訪れる靖国神社
多くの参拝者が訪れる靖国神社
 2012年12月、政権に就いた安倍首相は日銀人事への介入を宣言。翌2013年3月には、自らの意を汲む黒田東彦総裁と岩田規久雄副総裁を送り込む。4月には「黒田バズーカ」と言われる金融緩和を行い、株価は爆上げとなった。当然、比例するように支持率も上がる。 選挙は連戦連勝、都議会議員選挙でも参議院選挙でも、安倍首相率いる自民党は圧勝した。
 簡単な理屈だ。

「金融緩和する→株価が上がる→支持率が上がる→選挙に勝てる→政権基盤が強化される」
 アベノミクスこそ、安倍内閣の命綱だったのだ。

 ところが、参議院選挙勝利の2日後、麻生太郎財務大臣は「これで増税への障害はなくなった」などと、消費増税への鏑矢(かぶらや)を放つ。せっかく景気が回復軌道に乗ってきたのに、消費増税などをすれば景気に水を差すなど子供でも分かる理屈だ。麻生の背後にいるのは、財務省なのは明らかだった。事務次官の木下康司は、7月20日付『新潟日報』のインタビューで、安倍首相に増税を迫ると宣言していたほどだ。

 そして、霞が関の官僚機構は言うに及ばず、自民党の9割、公明党のすべて、民主党の幹部全員、経団連や経済同友会など財界主流、連合以下労働界、テレビと新聞のすべてが「消費増税」の大合唱だった。

 そして安倍首相は、財務省が敷いたレールに乗せられるがまま、10月1日の午後6時に、8%への消費増税を宣言した。

 その後の動きは周知のとおりである。2014年4月に消費増税が実施されると、景気は激しく低迷し、10%への増税は先送りされた。黒田日銀は何とかアベノミクスを支えているが、金融緩和でアクセルを踏みつつ、消費税がブレーキとなっている状態だ。だから緩やかな景気回復は続けているが、「蛇行運転」の状況である。以後、安倍内閣が政権奪還直後の勢いを取り戻すことはなく、現在に至っている。

 さて、長々と8%消費増税決定の過程を振り返ったのには意味がある。アベノミクスが安倍内閣の生命線であるのみならず、靖国問題においても、決定的な意味があったからだ。