先日のNHKニュースで大同大学の澤岡昭名誉学長がこう述べている。「これは非常に古いエンジンでアメリカのアポロ計画の時代1960年代に開発が始まって、アメリカが月へ行った頃に完成したと言われています」

 澤岡氏の言を俟(ま)たずとも、旧ソ連が米国の科学技術を盗み取っていたのは軍事技術者の間では有名な話で、米国が1970年代、戦闘機F15イーグルを開発すると、それに対抗してソ連はミグ29とスホイ27を開発したが、形状はF15にそっくりである。

 つまり、ソ連が米国のエンジン技術を盗み、ウクライナに製造させていたのがRD250系であって、技術の提供元をしつこく探れば、結局米国という事にもなる。一歩間違えばブーメランにもなりかねないリスクを米国は冒しているわけである。

 ウクライナから闇の市場を通って北朝鮮にたどり着いたと言われているが、このエンジンの製造をウクライナは2000年代初頭に停止しており、10年以上も闇の市場を漂っていたとは考えられない。

 しかもウクライナは、製品をすべてロシアに納入しているから、ロシアから北朝鮮に流出したと言うが、現在の両国の経済状況から見てロシアに、無料で技術供与をする余裕はなく、また北朝鮮に金を払う余裕もないであろう。

 むしろ、ここで関与が疑われるのは中国であろう。中国にはまだ北朝鮮を支援するだけの経済的余裕がある。しかも1998年に中国はウクライナから空母を購入して、後に「遼寧」として就航させている。

 2000年前後において、ロシアの軍縮によってウクライナの兵器産業はひっ迫しており、経済成長を始めた中国は新しい顧客として優遇されていた。ウクライナが中国にRD250系を二束三文で売り払ったとしても不思議はない。

 もちろんウクライナの主張のようにすべてがロシアに納入されているとすれば、ロシアから中国が買った可能性もある。いずれにしてもRD250系は旧式であるから欧米としても特に問題視しなかったであろう。
エンジン流出源について記者会見に臨んだウクライナ宇宙庁のラドチェンコ長官代行=2017年8月15日、キエフ
エンジン流出源について記者会見に臨んだウクライナ宇宙庁のラドチェンコ長官代行=2017年8月15日、キエフ
 中国としては当初、非軍事の宇宙ロケットの開発に転用する計画だったであろうが、やがて北朝鮮が核実験に成功するに及び、新しい利用法を発案した。つまり北朝鮮のミサイル開発の支援に利用するのである。

 北朝鮮が核ミサイルを独自開発してしまえば、そのミサイルが中国に向かう可能性をはらんでいる。中国が全面的に支援して北朝鮮のミサイル開発自体をコントロールすれば、中国製のGPSを組み込むことにより、その可能性を排除できるのである。

 今回、米国がブーメランのリスクを冒してまで、同盟国ウクライナを苦境に追い込んだのは興味深い。トランプ政権はロシアとの接近を図っているが、その最大の障害はロシアとウクライナの対立であり、ウクライナの譲歩があれば、米露接近は可能になる。

 一方、米露接近を最も警戒しているのが中国であり、ロシアを中国側に引き込み中朝露と日米韓の対立の構図を演出している。だが、この対立の構図は安定したものではなく、むしろ不安定で危険である。なぜならそれは世界大戦を指向しているからである。