柳澤協二(元防衛省幹部、国際地政学研究所理事長)

 北朝鮮がグアム周辺へのミサイル着弾計画を公表し、トランプ大統領が核攻撃による報復をにおわせるような発言をしたことで、危機感が一気に盛り上がった。その中で、一番右往左往したのが他ならぬ日本だった。

 北朝鮮が予告したミサイル飛翔経路に当たる島根、広島、高知と愛媛の各県では、自衛隊が迎撃ミサイルPAC-3を展開し、ミサイル落下に備えた警報・避難の訓練が計画されている。テレビのワイドショーでは、日本上空を飛ぶ無数の民航機を地図上にプロットして、航空機にミサイルが衝突する危険を訴えていた。

 物事の本質を見ない者は、危機にうろたえ、意味のない行動に走る。ミサイルは、日本上空の宇宙空間を超えてグアムに向かう。その段階では、すでに数百キロの高度にあるミサイルが、高度1万メートル以下を飛ぶ民航機と衝突することはない。

 軍用機と民航機の衝突や、軍艦と民間船舶の衝突は枚挙にいとまがない一方、宇宙を飛ぶ無数の人工的物体が落下してくるのは現実の危険ではあるが、それは今回のミサイルに限ったことではない。

 仮に失敗して日本に落下するとしても、北朝鮮からグアムまで3700キロ飛ぶミサイルが島根から高知までの200キロの間に落ちる確率は、単純計算でも200÷3400=5・4%だ。しかもそれは、ミサイルが途中で故障する確率を100%と仮定したときの確率である。仮に、一段目が成功して日本に届く出力を発揮し、2段目が失敗して日本を超えない範囲に落ちるような故障をする可能性を考えれば、限りなくゼロに近い。つまり日本は、限りなくゼロに近い危険を想定して膨大なエネルギーを費やしている。

 落ちてくるのが心配なら、大気圏への再突入で大半が焼失するミサイルの残骸よりも、発射地点の近傍に落下することが確実なPAC-3の胴体のほうが心配だ。島根駐屯地から撃てば日本海の海岸近くに、広島市内の海田駐屯地から撃てば広島市内に、松山駐屯地から撃てば瀬戸内海に、高知駐屯地から撃てば高知市近傍に、PAC-3の胴体が落ちてくる。
陸上自衛隊松山駐屯地に配備されたPACー3=2017年8月12日、松山市
陸上自衛隊松山駐屯地に配備されたPACー3=2017年8月12日、松山市
 おまけに、PAC-3は、自分をめがけて落ちてくる弾頭を迎撃すべく設計されているので、配備された駐屯地の位置が実際のミサイルの経路から外れていれば迎撃できない。また、大気の抵抗を受けるために落下経路を計算できない物体に迎撃ミサイルを命中させることは、多分、できないと言う方が正しい。こうして、PAC-3による迎撃によって、落下物から身を守りたいという目的とは正反対の行動をとることになる。これを右往左往と言わずして何が右往左往か。

 その右往左往の極みが、小野寺五典防衛大臣が国会で、グアムへのミサイル発射について存立危機事態を認定してミサイルを集団的自衛権によって迎撃する可能性に言及したことだ。テレビのワイドショーが危機を煽るのは無知だから仕方がないとしても、国家理性を体現すべき国会の場でこうした議論が大真面目に行われるに至っては、それこそ国の存立が危うい。