北朝鮮が言う通りグアムの周辺30~40キロの公海上にミサイルが着弾したとすれば、それは、当然にアメリカの自衛権行使を正当化することにはならない。アメリカへの威嚇ではあっても、アメリカへの武力攻撃であるとは言えないからである。

 万一、狙いがそれてグアムに着弾したとしても、実弾頭ではなくダミーであるはずだから、それだけで北朝鮮の武力攻撃を認定するには無理がある。こうした行為が繰り返されるようであれば、それは、新たな形態の武力攻撃と言えなくもないが、例えば日本の領域に侵入した外国の軍用機が爆弾を落とさずに部品を落としていった場合にそれを武力攻撃と認定できるか、という問いと同じだ。

 こうしたミサイル発射は、他国領域に被害をもたらす無法な行動であり、それ自体も国連安保理決議によって禁止されている違法な行為であるが、武力攻撃の意図がなく、外形上も武力攻撃と認める理由が乏しければ、自衛権は発生しない。国際法は、相手が国際法に違反したことをもって自衛権の発動を認めていない。イラク戦争で、サダム・フセインは国連安保理決議に違反していたが、それはアメリカの武力行使を容認しないというのが安保理構成国の多数意見だった。

 アメリカが自衛権を主張して反撃することも十分考えられるが、その場合、アメリカもダミーの弾頭を積んだミサイルを撃ち込むのだろうか。そうなれば、まるで子供の喧嘩だ。意味を持つ行動をとるなら実弾頭で攻撃するしかないが、それは報復としてもやりすぎの批判を免れない。つまり、アメリカの対応はかなり難しい計算が求められる。北朝鮮も、そのギリギリの線を狙った嫌がらせをしている、というのが問題の本質だ。

 そのような客観的条件のもとで、日本が集団的自衛権を行使する議論がどうして出てくるのだろうか。小野寺大臣によれば、それは、グアムが攻撃されて機能を失えば、日本を守るための抑止力が減殺するから、日本の存立を危うくする可能性がある、という論理だ。だが、この論理は、何か変だ。
衆院安全保障委員会の閉会中審査で、特別防衛観察の結果などを報告する小野寺五典防衛相=2017年8月(斎藤良雄撮影)
衆院安全保障委員会の閉会中審査で、特別防衛観察の結果などを報告する小野寺五典防衛相=2017年8月(斎藤良雄撮影)
 第一に、グアムが破壊されるのは、ミサイルが日本を超えて正常に飛翔する場合である。日本海にいる日本のイージス艦は、ミサイルの最高高度近くで迎撃する。グアムに向かうミサイルの最高高度はイージス艦の迎撃ミサイルの迎撃可能高度を上回っている。ゆえに、日本がこのミサイルを打ち落とすことは物理的に不可能なので、集団的自衛権行使を論じる意味がない。