石坂浩二と浅丘ルリ子の恩讐に『やすらぎの郷』ヒットの秘密がある

『肥留間正明』

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肥留間正明(芸能評論家、ジャーナリスト)

 
『渡る世間は鬼ばかり』の会見に出席した石井ふく子(左)と橋田壽賀子=2016年9月1日、東京都港区
 「ドラマの基本は何か?」

 1990年から2011年まで放送された『渡る世間は鬼ばかり』の石井ふく子(90)プロデューサーにドラマが成功する秘訣(ひけつ)を聞いたことがある。

 「ドラマはまず脚本! 本がしっかりしていなければドラマの成功は考えられません。その上で適材適所の役者がそろって、初めてドラマは成功します」

 『渡鬼』の脚本家である橋田壽賀子(92)は、NHK朝のテレビ小説『おしん』の脚本を担当した大ヒットメーカーでもある。おしんの波瀾万丈な人生を描き、いまでも中国で人気のあるテレビドラマだ。亡くなった藤岡琢也、宇津井健(いずれも故人)をドラマの要となる父親役の岡倉大吉に起用し、泉ピン子を主役として20年間に及ぶ高視聴率ドラマを作り上げた。

 同じように『やすらぎの郷』も『渡鬼』の基本をすべて踏襲している。脚本は『北の国から』の倉本聰(82)。『北の国から』の脚本は、単なるウケを狙わず、長期的展望に立った大河ドラマ的な描き方をしている。

 倉本聰の脚本を田中邦衛(84)などの俳優が、延々と演じた。中でも黒板純役の吉岡秀隆(47)は、11歳から32歳になるまでを演じていた。

 視聴者は純の成長を吉岡に重ね合わせた。そして『北の国から』が終わった後、俳優としての地位を確立し、『Dr.コトー診療所』などのテレビドラマだけではなく、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』でも独特の演技を見せている。
 
 『やすらぎの郷』は、期待されてスタートした番組ではなかった。持ち込んだフジテレビに蹴られ、最後に拾ってくれたのがテレビ朝日だった。しかも放送されるのは昼の15分枠。視聴率が低迷する『徹子の部屋』直後の番組として穴埋め的にスタートした。その裏にはテレビ朝日、早河洋社長の英断があった。
大英断の裏側にあるもの

 なにしろ出演者は栄光のシルバースターのオンパレード。主役のシナリオライター役の石坂浩二(76)、浅丘ルリ子(77)、有馬稲子(85)、加賀まりこ(73)、五月みどり(77)、ミッキー・カーチス(79)、八千草薫(86)、山本圭(77)、藤竜也(75)など大物俳優は70~80代。だが、演技は申し分ない。

 さらに入居者の藤木孝(77)、山谷初男(83)、毒蝮三太夫(81)、伊吹五郎(71)、冨士眞奈美(79)などの個性派の演技に劣化は見られない。60年代から70年代にブレークした俳優、タレントたちがシルバー人生の苦悩と喜び、人生の終焉(しゅうえん)を演じる。やすらぎの人生を送った出演者のうちの1人である野際陽子(享年81)は、ドラマの進行と同時に他界している。

『やすらぎの郷』の一場面(テレビ朝日提供)
 共演している石坂浩二と浅丘ルリ子は、実際に夫婦だったが離婚している。2人は文京区の川口アパートメントの同じ間取りの上下の階に住み階段を作って行き来して、マスコミの目を欺いた。シルバー世代は、自分の人生と重ね合わせて、石坂と浅丘の結婚、離婚を思い浮かべる。

 一方、石坂と加賀まりことの交際は、当時の女性週刊誌のトップを常に飾っていた。スキャンダルの集中砲火の中を生き延びた加賀まりこの自由奔放さとたくましい人生をドラマに重ねてみる。

 芸能界では離婚、交際したカップルの競演を避ける不文律があるが、それも恩讐(おんしゅう)のかなたに…。視聴者とすれば、色眼鏡をかけてみるとより面白い。芸能界はまさに魑魅魍魎(ちみもうりょう)だ。出演者たちは過去にとらわれず静かに青春時代を振り返りながら、思い出を楽しんでいるように見える。

 そういえば五月みどりさんの「♪おひまなら来てよね…」が大ヒットしたっけ。

 現在の民放を見回すと、同じような顔に見えるテレビ芸人の独壇場だ。高齢者が見る番組がほとんどない。高齢者はNHKのニュース番組に大河ドラマや演歌番組、そしてワイドショーを見る程度で、見たい番組が見当たらない。その高齢者が『やすらぎの郷』の視聴率を支えている。若者はテレビよりネット、その一方で高齢者はテレビだ。テレビ局は視聴者を間違えている。
テレビに活力を取り戻す

 確かにシルバー世代に向けたドラマは皆無だ。だが、北大路欣也(74)、泉谷しげる(69)、志賀廣太郎(68)出演のテレビ東京の『三匹のおっさん』は高視聴率をたたき出した。
テレビ東京系『三匹のおっさん3』の制作発表に出席した左から志賀廣太郎、北大路欣也、泉谷しげる=2017年1月15日、東京・千代田区
 シルバー世代の井上陽水(68)のコンサート会場は常に満席、陽水ファンは『氷の世界』『傘がない』をカラオケで熱唱する。演歌など全く歌わないしシルバー世代も多い。「やっと時間ができた、人生はこれからだ!」と、登山、自転車のロードレースに打ち込む団塊の世代も珍しくない。

 シルバー世代は消え行く人生の敗北者ではない。戦後の日本経済の復興を果たした60年代、そして70年代のバブル期を構築してきたパワー溢(あふ)れる勝者でもある。同じように『やすらぎの郷』の俳優たちは、時代を作り脚光を浴びた名優たちだ。「人生はこれからだ!」シルバー俳優たちからこんな声が聞こえてくる。

 『やすらぎの郷』は離婚と結婚などの冠婚葬祭、家族との絆、遺産、恋愛、認知症、死への恐怖…など、「老い」をテーマにしている。燃え尽きるまで生きる、貴重な人生のお手本がこのドラマにある。

 主題歌の『慕情』を歌う中島みゆきも良い。彼女の歌を聴くと体全体から躍動する力が湧いてくる。この主題歌が『やすらぎの郷』の側面を支え、勇気と希望を与える。

 このドラマは昼の時間帯で終わる番組ではない。高視聴率はテレビの意識を変える。シルバー世代が酒を飲み始める午後5時、6時の時間帯への出世も考えられる。

 『やすらぎの郷』のヒットの原因は、いろいろな側面から考えられる。その中でも大きいのは、戦前世代との世代交代だろう。50年から70年代にかけて少年期を過ごした世代は、ジャズを発見し、プレスリーのアメリカンポップスに目を丸くした。そしてビートルズの襲来、エレキに親しみ、GS(グループ・サウンズ)のザ・タイガースを生み、沢田研二に熱狂している。戦後世代は、欧米の音楽、映画、演劇を取り入れ、新しい文化と生活を構築してきた。

 彼らはいま、「やすらぎの世代」の真っただ中に生きている。『やすらぎの郷』ヒットの背景には、戦後の復興を突っ走った彼らの年齢を超越するたくましさがある。

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