テレビ業界の内輪ウケ、『やすらぎの郷』に広がるウンザリ感

『鈴木祐司』

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鈴木祐司(次世代メディア研究所代表)

 今年の春改編でテレビ朝日が昼に新設した帯ドラマ『やすらぎの郷』。「2017年、酸いも甘いもかみ分けたシニアたちが楽しむシルバータイムドラマ」のスタートだった。

 脚本は82歳の倉本聰。そして主人公の石坂浩二(76)をはじめ、浅丘ルリ子(77)、加賀まりこ(73)、八千草薫(86)、有馬稲子(85)、五月みどり(77)など、かつてテレビや銀幕で大活躍した俳優が続々と登場する。 

 このドラマは放送開始後、高く評価する記事が目白押しとなった。 
 「『やすらぎの郷』から目が離せない!“ドタバタコメディ”を成立させた役者たちの人生の厚み」、「早くも話題騒然、視聴率も絶好調  今年最大の問題作『やすらぎの郷』を見逃してはいけない」、「倉本聰脚本『やすらぎの郷』は、ゴールデンを凌駕するシルバータイムドラマ!?」、「今、日本で最もヤバいコンテンツは昼ドラ『やすらぎの郷』だ」…。

 中には5月末以降で、20本以上も『やすらぎの郷』を持ち上げる記事をヤフーニュースに寄稿したフリーライターもいた。

 しかし、筆者の感覚では、大御所が書き、多くの大物俳優が出そろっているために、ドラマの実力以上に褒め過ぎている記事が大半と見える。視聴者の見方を冷静に分析すると、このドラマはそこまで褒められる代物ではない。
 
 まず、視聴率の動向を、NHKの朝の帯ドラマ『ひよっこ』と比較しながら見てみよう。
『やすらぎの郷』第1週の平均世帯視聴率は7・4%。前年は『ワイド!スクランブル第2部』が放送されていたが、これと比較すると2%ほど高い数字となっていた。極めて順調な滑り出しだったと言えよう。

 一方、『ひよっこ』の第1週は19・4%。20%割れでのスタートを、多くのネットニュースが取り上げた。ところが第2週以降を比較してみると『やすらぎの郷』は6%台に下がり、15週目まででは5%台が6週にも及んだ。

 第1週を100として指数で表現すると、第2週以降80台が中心となり、70台も何度も出ていた。当初から比べると4分の1の視聴者を失った格好だ。だが、『ひよっこ』は、第15週までの上下動は±6%の範囲にとどまる。極めて安定した推移を示し、しかも11週以降は第1週より高い。明らかに上昇傾向にある。激しい上下動で、かつ下落傾向にある『やすらぎの郷』とは対照的な軌跡を描いていた。
さほど評価していない視聴者

 さらに視聴者の構成でみると『やすらぎの郷』は極端に高齢層に偏っている。シルバータイムドラマと銘打って始めたのだから、ここは狙い通りと言えるかもしれない。12時台の世帯視聴率では、横並びでトップ争いを演じているが、59歳以下の個人視聴率ではビリ争いとなっている。40~50代の男女にもある程度見られている『ひよっこ』とは大きな違いとなっている。

 ちなみに両ドラマの数字を比較すると『やすらぎの郷』は世帯視聴率では『ひよっこ』の3~4分の1。そして59歳以下個人視聴率だと、7分の1以下まで小さくなってしまう。

 同じ2400人のテレビ視聴動向を追うデータニュース社「テレビウオッチャー」で見ると、詳細に視聴動向が明らかになる。例えば『ひよっこ』では、第3週までに1回でも視聴した人は186人に達した。うち100~110人が各話の視聴者数なので、約6割の定着率といえる。一方、『やすらぎの郷』は、3週までに1回でも視聴した人が74人。うち20人ほどしか各話を見ていないので、定着率は3割ほどしかない。

 しかも第15週まででは2割に落ちてしまう。話題なので一度は見てみたが、1話ないしは数話見て辞めてしまった人がかなり多かったことを意味する。原因は明確だ。「話がちっとも先に進まない」(男性47歳)、「毎日同じ場面に感じられる」(女性74歳)などの声があるように、ドラマとして違和感を持った人が多かったからだ。
『やすらぎの郷』の一場面(テレビ朝日提供)
 評論家の中には「過激なテレビ批判」を評価する声も少なくなかったが、視聴者は「芸人たちが内輪だけに分かるネタで盛り上がっているのと同じ」とあるように、ドラマ内で展開されるテレビ批判は、普通の視聴者に響いていなかったようだ。23歳の男性は「つまらなかった」、61歳の男性は「豪華キャストで注目の作品」、53歳の女性は「離婚した二人が出るのね」の一言を残して、第1話しか見なかった。初回を見た33人のうち、6人が完全に脱落したのだ。

 そして第1週のうちに、さらに3人が視聴しなくなった。離脱率や約3割である。第3週まででは15人、離脱率45%。15週まででは20人、6割以上の人が見なくなっている。以上のように、視聴者は『やすらぎの郷』をさほど高く評価していない。

 それでもテレ朝としては、初めから織り込み済みの戦略だったのかもしれない。若年層や中堅層を捨て、高齢層の支持だけを集めることで世帯視聴率向上を、一定程度果たしたからである。視聴率も売り上げも容易に作れない昼の時間帯では、広告ビジネスとしてはあまり美味しいとはいえない。だとすれば、世帯視聴率の確保を着実に果たせば、全日(朝6時~夜12時)や三冠の視聴率競争において有利に展開できる。巡り巡ってスポンサーとの向き合いで有利に働くようになる。 
テレ朝は老人チャンネルを目指す?

 テレ朝は2010~12年にかけて、視聴率を順調に伸ばし、三冠王にあと一歩まで迫ったことがある。この頃の幹部は「とにかく一度頂上に立つ」と、視聴率へのこだわりを滲ませていた。日テレが強い全日で、若年~中堅層を捨て高齢層で世帯視聴率を作る作戦に特化している可能性がある。

 実際テレ朝は、GP帯(ゴールデン・プライム、午後7~11時)のドラマを刑事もの・ミステリーものに特化したり、シリーズ化したりして、安定した視聴率を得ている。中高年に強いドラマに特化して世帯視聴率を安定的に得ているのである。

テレビ朝日本社=東京・六本木
 こうしたドラマの再放送を3時間編成している午後帯も強い。例えば今年4~6月の午後2時台では、日テレ『情報ライブミヤネ屋』に次いで、同局のドラマ再放枠が2位につけている。その最大の要因は、「F3」(女性50歳以上)の個人視聴率で断トツの首位となっていることだ。昼の時間は接戦だが、『徹子の部屋』は民放の中で2位と好位置につけている。やはりF3でのトップが世帯視聴率を牽引している。

 さらに朝8時台のワイドショー枠でも、『羽鳥慎一モーニングショー』で民放トップを走っている。この番組も、F3と「M3」(男性50歳以上)が首位だ。 この作戦は、日本の人口が50歳以上で45%を占める時代に合致したものと言える。5系列ある民放に“老人チャンネル”が出来ることは、多様性の担保という意味で悪くないかもしれない。 

 しかも広告営業対策や59歳以下の獲得については、サッカーやフィギュアスケートなどスポーツの国際大会、GP帯のバラエティ、深夜のドラマなどで手は打っているということかも知れない。さらに10~20歳代については、テレ朝はAmebaTVに積極的に取り込んでいる。

 こうして考えると『やすらぎの郷』の編成は、テレ朝の編成戦略が旗幟(きし)鮮明になったターニングポイントだったのかもしれない。この戦略で、テレ朝がどこまで実績を伸ばすのか、注目したい。


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