来年10月から始まる「医療事故調査制度」で、運用指針を協議する厚生労働省の検討会での議論が白熱している。制度は医療行為に伴う「予期せぬ死亡」があった際、病院が第三者機関に報告したうえで院内調査し、結果を遺族と第三者機関に伝えるもの。だが、予期せぬ死亡の定義、院内調査や報告書のあり方などをめぐり、医療界の一部と医療事故遺族側との意見の隔たりは大きい。制度はどうあるべきか。医師の佐藤一樹氏に話を聞いた。

 ──これまでの検討会の議論をどうみているか

「いつき会ハートクリニック」の佐藤一樹医師
 「医療事故調制度の目的は医療事故が起きた場合に何が起きたか分析し、医療安全の確保につなげることだ。原因を究明することは得てして責任追及につながりやすいが、責任が問われるとなると現場の医療者は事実を証言しにくく、医療機関の管理者側の都合の良い物語を作ってしまうことがある。医療安全は、紛争解決や責任追及といった考え方と共存できない。責任追及でなく、原因をきちんと分析し医療安全につなげる制度にしてほしい」

 ──医療者が自らの責任回避を求めているようにもみえるが

 「私は平成13年に東京女子医大病院で起きた死亡事故をめぐり、業務上過失致死容疑で逮捕された(21年に無罪確定)。院内の調査委員会が、私が人工心肺装置の操作を誤ったとする報告書をまとめたからだ。実際は他に問題があったことが事故につながったのだが、調査委は手術に立ち会った全員から十分に聞き取りをせず、私も30分ほど事情を聴かれただけだった。不完全で誤った事故調査は冤罪(えんざい)を生む。新制度でも事故調査はまず院内で行われるが、冤罪を防ぐためにも、院内調査は誰が悪いかではなく、そのとき何が起きたかを徹底して調査すべきだ」

 ──第三者機関へ報告する対象をめぐっても、考え方に隔たりがある

 「改正医療法は『医療機関の管理者が死亡を予期しなかったものを調査対象とする』としているが、予期しなかったという言葉は分かりにくい。一方の医師法には、医師は死体を検案して(体の表面に)異状を認めたときは警察に届け出なければならないとの規定がある。現状では『異状』が何を指すのかが条文や最高裁判断の通りに周知されておらず、これを機に、警察に届け出をする場合と第三者機関に報告する場合を整理する必要がある」

 ──院内調査の報告書を遺族に渡すかどうかも意見がまとまっていない

 「報告書は医療安全の確保のためにのみ使われるべきだ。今月初め、脊髄に使ってはいけない造影剤を誤投与して医師が書類送検されたが、造影剤の同種死亡事故で現場医療者の責任が問われるのは私が知る限り7件目だ。責任追及は再発防止につながっていない。それよりも事故の内容を分析し、安全のために医療機関が情報を共有できるシステムを作るべきで、報告書はそのために使ってほしい」

 ──患者側の医療不信にどう応えるべきか

 「医療事故が起きたとき一番優先されるのは、第三者機関への報告よりも目の前の患者や家族にしっかり対応することだ。臨床現場の過剰な負担を減らすことが、結果として医療安全につながり患者のためになる」(道丸摩耶)

佐藤一樹(さとう・かずき)
 昭和38年、東京都生まれ。51歳。山梨医科大(現山梨大医学部)卒業。東京女子医大日本心臓血圧研究所循環器小児外科に入局し、平成21年に「いつき会ハートクリニック」(東京都葛飾区)開院。