佐藤美玲(ジャーナリスト)

 「バージニアほど美しい場所は、ほかにない」

  そう言うアメリカ人に、ときどき出会う。何度か旅をして、確かにそうかもしれない、と私も思う。

 ワシントンDC方面からシャーロッツビルへ抜けるルート15沿いには、ワイナリーや果樹園が多く、まさしく「ローリングヒル(緩やかな丘陵)」と呼ぶのがぴったりな風景が続く。花が咲き、馬が駆け、さざめくような美しさだ。

 そんな景色に見とれつつ、私は「桜の木の下には死体が眠っている」というフレーズを思い出す。アメリカの南部には、独特の優美さと豊かさがある。その美しさの下に、ドロドロと暗く醜い歴史が横たわる。そして、断固としてその闇を見まいとする空気が、土地と人を覆っている。バージニアに限らず南部を旅すると、いつも私はその激しい対比に胸が重くなる。

 8月10日夜、シャーロッツビルにあるバージニア大学のキャンパスに、白人至上主義者が集結。たいまつを掲げ、ナチスのスローガンを連呼して練り歩いた。翌日、抗議に集まった群衆に向かって白人男性の運転する車が激突し、白人女性のヘザー・ハイヤーさんが死亡、多くが重傷を負った。トランプ大統領は、白人至上主義者らを即座に非難せず、抗議に集まった側にも責任があると強調。生中継のカメラの前で激高し、ネオナチにも善人がいる、などの擁護発言を繰り返した。
8月15日、米ニューヨークのトランプタワーで記者団に語るトランプ大統領(AP=共同)
8月15日、米ニューヨークのトランプタワーで記者団に語るトランプ大統領(AP=共同)
 すべてが異常で異様だった。「起きるべくして起きた」とは言いたくない。ただ、「驚いた」と言うのはナイーブすぎる。特に、トランプの対応は「想定内」だった。

 アメリカの選挙では「怠け者で危険な黒人」「不法移民のメキシコ人犯罪者」といったマイノリティーのステレオタイプを悪用して、恐怖をあおって票を集めるのは常套手段である。「アメリカの価値観、自由と富を享受するのに値しない人々がいる」というメッセージは、保守派と白人の共感を呼びやすいからだ。

 トランプは「オバマ後」の白人の不安を巧みに操り、偏見に満ちたデマを流し続けた。女性やマイノリティーへの暴言も相次いだが、白人有権者の大半は「それにもかかわらず」もしくは「それだからこそ」と、織り込み済みでトランプに投票したのである。白人至上主義者たちも、「本音を言える」とタブーを排除してくれたトランプを支援した。