来年10月から始まる「医療事故調査制度」で、運用指針を協議する厚生労働省の検討会での議論が白熱している。制度は医療行為に伴う「予期せぬ死亡」があった際、病院が第三者機関に報告したうえで院内調査し、結果を遺族と第三者機関に伝えるもの。だが、予期せぬ死亡の定義、院内調査や報告書のあり方などをめぐり、医療界の一部と医療事故遺族側との意見の隔たりは大きい。制度はどうあるべきか。医療事故遺族の永井裕之氏に話を聞いた。

 ──自身も委員で参加しているが、これまでの検討会の議論をどうみるか

インタビューに応じる医療事故遺族の永井裕之氏
 「危惧していた発言が、一部医療団体の委員から多くみられる。『再発防止策を報告書に書く必要はない』『遺族と患者は違う』などといった意見には驚く。医療事故の原因究明と再発防止に役立て、日本の医療の安全と質を高めることが目的のはず。自分の病院だけでなく、ほかの病院にも共通する問題が出てきた場合に医療界全体で対処することが、医療事故から学ぶということだが、『どうやって医師を守るか』しか考えていないようにみえる」

 ──制度のあり方によっては、刑事責任追及や医療の萎縮につながるという意見がある

 「医療事故の被害者遺族が納得すれば、決してそうならない。納得とはインフォームドコンセント(告知と同意)や事実経過で、病院側と遺族側の認識が一致していること。今回の制度は遺族のためではないとはいえ、原因を究明して再発防止策を遺族側に示すことは、制度の趣旨と全く同じはずだ」

 ──第三者機関への報告基準となる範囲についての考えは

 「薬の取り違えによる死亡などは『予期せぬ死』に入らず、届け出なくてもいいという理屈はおかしい。私の妻が亡くなった都立広尾病院の点滴ミス事件で、病院側は「消毒液が入った可能性が高まった」と言いながら、医療事故とは断言できないとし、うやむやにされそうになった。『薬を間違えて亡くなる可能性がある』と事前に患者に説明する病院がありますか? 遺族が予期しなかったものを全部届け出ろとは言わないが、病院側と遺族側の双方が認識する『予期』の内容が近接していないといけない。そうでなければ、合併症も含めると大半が届け出られないことになる」

 ──ほかに、制度の運用上のポイントは

 「単純ミスも含め、まず24時間から一両日中に第三者機関に届け出た上で、院内調査を行う。この際、全国をいくつかのブロックに分け、専門家ら外部の人間が入る方が透明性・公平性を担保できるし、真相に近づける。院内調査の報告書は再発防止策を盛り込み、遺族側にも提出する」

 ──どんな医療事故調制度になることを望むか

 「『小さく産んで大きく育てる』のが理想だ。小さく産むとは、制度の対象を小さくという意味ではない。大学病院などの大きな病院が制度を引っ張っていくことが大切。私は小さな診療所を含め、制度が完全に医療界に定着するまで30年はかかると思っている。それだけに、魂の入らない有名無実化した制度で運用がスタートしてはならない」(伊藤弘一郎)

永井裕之(ながい・ひろゆき)
 昭和16年、長野市生まれ。73歳。東北大工学部卒業。平成11年、都立広尾病院の医療ミスで妻を亡くし、医療安全の活動を続ける。「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」代表。