無人宇宙船や核爆発、リアル「地球防衛軍」の議論はここまで進化した

『吉川真』

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吉川 真(宇宙航空研究開発機構准教授)

 天体が地球に衝突すると言うと、少し昔なら「ディープインパクト」や「アルマゲドン」という映画を思い出す人がいるだろう。最近なら、大ヒットしたアニメ「君の名は。」がまさに天体衝突をテーマにした映画である。

 しかし、天体の地球衝突は映画だけの話ではない。実際に起こることなのである。そして、もし天体が地球に衝突すると、まさに映画で描かれたようなことが起こりうるのである。天体衝突については、映画は決して大げさではない。

 今年5月15日、日本科学未来館(東京)にて、天体衝突をテーマにした国際会議が開催された。「プラネタリー・ディフェンス・コンファレンス」(PDC)である。欧米を中心に23カ国から200人以上が集まり、5日間にわたって天体の地球衝突問題が議論された。

 この会議は、今回で7回目となった。欧米以外で行われるのは今回が初めてである。なお、天体の地球衝突問題を扱う活動は「スペースガード」とも呼ばれてきたが、最近では「プラネタリー・ディフェンス」という言葉も使われるようになった。

 天体衝突が映画の世界のみの事象ではないということは、2013年2月にロシアに落ちたチェリャビンスク隕石が記憶に新しい。100キロ以上にわたって窓ガラスや建物の壁が壊れ、1500人もの人が負傷した。

 このときに落ちてきた天体の大きさはせいぜい20メートルくらいだという。天体の直撃ではなく、衝撃波によって広範囲に被害が生じた。さらに時代をさかのぼり1908年、シベリアで大爆発が起こり、2千平方キロに渡って森林がなぎ倒され焼け焦げてしまった。ツングースカ大爆発と呼ばれる出来事である。
 
 この場合、大きさが60メートルくらいの天体の衝突が原因だと言われている。そして、遙か昔の6550万年前、恐竜を含む多くの生物種が絶滅したが、そのきっかけとなったのが直径10キロくらいの天体衝突だと言われている。

 直径10キロとは言わないまでも、例えば「300メートルくらいの天体が東京に落ちてきたら」、まさにそのような想定での議論がPDCでは行われたのである。この会議についてはまた別の場所で報告することにして、ここでは天体衝突という問題にどのように対応すべきなのか、考えてみることにする。

 天体の地球衝突は、衝突してくる天体がある程度以上大きくなると、究極の自然災害である。現在起こっている、地震・津波、火山の噴火、気象災害などに比べて、はるかに大きな災害となり得る。

 しかし、これらの災害と異なる点が1つある。それは「予測可能」ということである。地球に衝突する天体を事前に発見しその軌道を正確に推定することができれば、その天体がいつどこに衝突するかが完全に予測できてしまうのである。これは、何年も先の日食や月食が正確に予測できるのと同じことである。例えば、今後、数十年から100年くらい先までの天体衝突なら予測可能なのである。
相次いで確認される地球接近天体

 予測ができれば対策も取れる。したがって、まず重要なことは地球に衝突する天体を発見し軌道を正確に推定することだ。地球に接近しうる天体を地球接近天体(NEO:Near Earth Object)と呼ぶが、NEOには小惑星と彗星がある。

 確率的には小惑星の地球衝突の方がはるかに高いので、プラネタリー・ディフェンスとしては、地球に接近する小惑星を探すことになる。実際、1997年くらいから地球接近小惑星の発見が急増した。

 これは、90年代に天体の地球衝突という問題が重要であるということが認識され、観測技術も向上したことによって積極的にNEOの観測が行われるようになったためである。現時点(2017年5月)で、発見されているNEOの数は1万6千個を超えている。この数は今後もますます増えることであろう。

 幸いなことに現在発見されている1万6千個余りのNEOが近い将来に地球に衝突する可能性はない。しかし、問題なのはまだまだ未発見のNEOが非常に多いということである。現在、NASAが主導するかたちで米国のいくつかのプロジェクトが中心となりNEOの観測が進められている。

 最近では欧州宇宙機関(ESA)もプラネタリー・ディフェンスに力を入れだした。日本では、岡山県に美星スペースガードセンターという施設がありNEOの観測を行っている。ただし、日本を含めアジア地域ではNEOの観測は低調である。米国・欧州・アジアと3つの地域で観測が行われるのが好ましいので、日本もNEO観測にさらに力を入れるべきであろう。

 このようにNEOを探す活動はすでに20年前から始まっている。では、もし地球に衝突する天体が発見されたらどうするのか。もちろん地球衝突回避をしたいわけであるが、実はこれが難しい。

 よくある映画のシーンのように、地球に衝突してくる天体に宇宙飛行士が行って爆弾をしかけて爆破するーこれは映画的には面白いが、現実的ではない。その理由は、仮に天体を爆破したとしても、その破片が地球に衝突してくるので、結局、広範囲にわたって被害が生じてしまうためである。

 では、どうするか。最も良いのは、地球に衝突してくる天体の軌道をそらすことである。軌道をそらすには、現在の技術では、例えば無人宇宙船をその天体に衝突させればよい。米国はすでに彗星に探査機を衝突させる実験を行っている。
※画像はイメージ
 日本も、「はやぶさ」や「はやぶさ2」のように小惑星に探査機を送ることができる。ただし、打ち上げることができる探査機や宇宙船は小惑星に比べればはるかに小さい。小惑星に衝突させてもその影響はわずかである。

 例えば、大きさが100メートルくらいの小惑星でかつ地球衝突までに十分な時間的猶予(例えば10年程度以上)があれば、宇宙船を衝突させることで小惑星の軌道を微妙にずらし、そのずれが時間の経過とともに拡大して最終的に地球に衝突しないで通り過ぎる、ということは可能なのである。

 しかし、相手の天体が大きかったり、衝突までの時間的猶予がなかったりすると、このやり方では衝突回避はできない。小惑星の軌道を変える方法としては、この他にもいくつか提案されてはいるが、あまり現実的ではない。
観測は将来への贈りもの

 その中で、特に議論に挙がるのが核爆発を使うものである。これも、小惑星を破壊するのではなく、小惑星の近くで核爆発を起こすことで、小惑星の軌道を変化させようとするものである。エネルギー的には核を使う必要があるが、本当にうまくいくかは分からないし、核廃絶という動きに逆行することにもなるので、慎重な議論が必要である。

 このほか、例えば衝突回避に失敗して別の国に天体が衝突してしまったらどうするかとか、特に大都市に天体が衝突する場合など人々の避難をどうするか、衝突回避のための費用は誰が出すのか、経済的な打撃にどう対応するのか等々、難しい問題がいろいろある。このような問題についてもPDCでは議論されているのである。

 以上のように、まず地球に接近し得る天体を観測するというところについてはどんどん進めればよく、実際に観測が進められているのであるが、天体の地球衝突回避や被害への対応については、いろいろ難しい問題が山積しているのである。
※画像はイメージ
 このような問題については、国際的な協力が必要であり、2000年前後からは国連の機関でも議論が始まり、13年には、プラネタリー・ディフェンスに関連してIAWNとSMPAGという2つの国際的なグループが組織された。

 IAWNは「International Asteroid Warning Network」というもので、地球に接近する天体を積極的に観測していこうという目的で設立されたものである。一方、SMPAGSは「Space Mission Planning Advisory Group」で、天体の地球衝突回避を目的としたグループである。IAWNの方はNEOの観測を行っている天文台や研究チームがメンバーとなっており、SMPAGの方は各国の宇宙機関がメンバーである。

 流れ星や小さな隕石のように、小さな天体は常に地球に衝突しているわけであるが、大きな被害を伴うような天体の衝突頻度は小さい。頻度は小さいけれども起こると大きな災害となる。

 そのような「低頻度巨大災害」にどのように対応するのがよいのかは難しい課題であるが、天体の地球衝突問題については、まずは地球に接近しうる天体であるNEOを発見すればよい。今、NEOの観測をしておくことは、「人類としての危機管理」でもあるし、将来の人類への贈りものともなる。

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