2017年08月29日 17:01 公開

モニカ・ミラー、BBCニュース、シンガポール

ネイサン・ブレチャージク氏(34)はビジネスモデルの破壊という表現がはやる前から、それを実践していた。民泊サイト「Airbnb」(エアービーアンドビー)の共同創業者は12歳でコーディングを始め、高校生の時には20カ国以上に顧客を持つオンラインのマーケティング事業を立ち上げた。

起業に成功して100万ドル(約1億1000万円)近くの資金を得たブレチャージク氏は、自費でハーバード大学に通い、コンピューター科学を学んだ。

エンジニアとしていくつかの職を経た後、リスクは計算ずくで、2008年に友人2人とAirbnbを立ち上げた。金融危機が猛威を振るうまっただ中だった。

事業立ち上げに必要な資金繰りが得られなかった時、3人は独創性を発揮した。特別にデザインしたシリアルの箱を、2008年米大統領選の民主党全国大会で売り出したのだ。

3人は「オバマ・オー」と「キャプテン・マケイン」シリアルのおかげで3万ドル(約330万円)の資金を調達し、最終的には開業資金も獲得できた。

今のAirbnbはシリコンバレーで最も価値が高い企業の一つだ。時価総額は推定約300億ドル(約3.3兆円)に上る。では次はどこに進出するのか?

新たなチャンス

最高戦略責任者(CSO)でもあるブレチャージク氏は、アジア太平洋地域への拡大にしっかり焦点を当てていると言う。

アジア太平洋地域には、世界中のミレニアル世代の約60%がいる。ブレチャージク氏自身と同じ、19歳から35歳の最も成長著しい消費者層だ。しかしAirbnbに登録されている400万件のリスティング(宿泊物件)の内、アジアにあるのはわずか15%にとどまる。

ブレチャージク氏は、「巨大な人口で、その多くは中流階級になりつつある」と話す。「可処分所得を手にした人は、真っ先に旅行したいと思うものです。なので、Airbnbがアジア以外でどれだけ大人気でも、アジアで人気がなければ、それは当社にとって大きな損失です」。

最大の挑戦は中国本土での成功かもしれない。国連世界観光機関によると2016年、中国の海外旅行者は6%増え、1億3500万人となった。

激しい競争

しかし、中国本土の市場への参入がすぐ成功を意味するわけではない。例えば、配車アプリの世界最大手ウーバーは2014年に中国市場に参入したものの苦戦。中国のライバル社、滴滴出行に少数株主として出資して中国市場に足場を維持する形を取った。

Airbnbに登録された中国の物件は約10万件あるものの、他の短期オンライン民泊仲介サービス、特に40万件の物件登録がある「途家」など、競合他社との厳しい競争にさらされている。それなのになぜ、ブレチャージク氏は勝機があると見込んでいるのだろうか?

「地元企業はどれも、中国国内には宿泊物件を確保しているが、国外に手を広げていないし、今後そうしようとしても大変だと思う。一方で我々は、191カ国に400万件の宿泊物件を押さえている。なので私たちは自社ブランドの差別化に、大いに注力している」

Airbnbはさらに、中国での商標権侵害をめぐる法廷闘争に巻き込まれたニューバランスやマイケル・ジョーダンなど、他の世界的ブランドの過ちからも学んでいる。

今年3月、Airbnbは中国内でのブランド名を明らかにした。標準中国語を話す人たちに発音しやすい「愛彼迎」(Aibiying、あいびいん)だ。愛情をもってお互いを歓迎するという意味になる。Airbnbは中国本土でピンイン(中国語の発音のアルファベット表記)と標準中国語で、このブランド名を商標登録してる。

規制のハードル

Airbnbは、短期滞在宿泊施設やホテル業界の伝統的なビジネスモデルを破壊することに成功してきたが、一方で世界各地の規制当局はさかんに抵抗してきた。

例えばニューヨークとバルセロナは今年、民泊仲介サイトのせいで家賃が値上がりし、現地の住宅在庫が減るとの批判を受けて、仲介サイトを取り締まった。違法な部屋の貸し出しを宣伝するAirbnbの家主には、重い罰金が科せられる。

こうした問題についてブレチャージク氏は触れなかったが、同社広報は、「当社が協力する各国政府は、Airbnbが各地にもたらすメリットを理解している。(中略)とはいえ、法制度が新しい技術革新に追いつくには時間がかかることがある」と述べた。

アジア太平洋地域では今年6月、日本の国会で民泊普及の規則を定めた「住宅宿泊事業法(民泊新法)が成立。民泊仲介業者にとって、法律上の勝利となった。

だが同じアジア太平洋地域でも、日本以外への進出するのはもっと大変だろうと、香港理工大学ホテル・観光経営学部のブライアン・キング副学部長は話す。

「より難しい環境とは、たとえば香港。Airbnbがアジア太平洋地域の運営拠点を置くシンガポールもそうだ」とキング教授は言う。

「とはいえシンガポールは最近、賃貸期間の最短要件を6カ月から3カ月に緩和したため、今後はもっと素早く拡大するかもしれないと、いくらかは期待がもてる。進捗度合いは国ごとに異なるが、全体的にAirbnbは現地の民泊仲介会社とうまく競争している」

Airbnbは最近、全く別の理由のため、ニュースで大々的に報じられた。米バージニア州シャーロッツビルで発生した暴動の数時間後、同社は率先して立場を明らかに表明し、シャーロッツビルの集会に参加した白人至上主義者たちを、Airbnbサイトから排除した。

ブレチャージク氏は、「旅行は人を結びつけ、受容性を養う。私たちは旅の力を信じている」と述べ、「それと反対のことが世界で起こっているのを目にしたら、自問自答しなくては。自分たちの価値を守り、それに沿って生きたいのか。それとも当社の価値観は単に、聞こえが良いから書いているだけなのか」と話す。

創業者兼大家

ブレチャージク氏は、体験型の旅行に情熱を燃やしている。

2児の父親でもあるブレチャージク氏が北カリフォルニアのの自宅にいないときは、世界中を飛び回り、いろいろなAirbnbの宿泊施設に泊まってみては、同社の新サービス「トリップ」を試している。

「トリップ」を使うと旅行者は、料理教室やハイキング、文化ツアーなどの活動を通じて現地の文化を垣間見ることができるのだ。

サンフランシスコでAirbnbの部屋を借りると、ブレチャージク氏が新しいタオルを部屋に持って来てくれるかもしれない。同氏はAirbnbの「大家さん」でもあるのだ。ただし、自分のアカウントだと知られないように設定しているので、大半の人は自分のことを知らないと話した。

ブレチャージク氏が借りる部屋の好は様々だ。ワイン畑のあるイタリアの城に泊まったこともあるし、記念日にはインドネシア・バリで、竹でできたモダンなツリーハウスに泊まったこともある。ハワイでは複数の豪邸に滞在した。

その一方で、米誌フォーブスの自力で億万長者になった若者リストに載るほどの資産家になったとはいえ、ワイルドな旅もいとわない。ブレクチャージク氏が借りた一番安い部屋は、数年前に泊まったラトビアの寝室で、一泊18ドル(約2000円)だった

「3日間ここに泊まった。貸してくれた人は自分の寝室を僕に提供して、本人は居間のソファーで寝ていた。とても小さい、質素な場所です。でも、最高にいかしてた」

「借りた先で大家と一緒に過ごすのが、何より一番面白かったということもある。この時の大家は文字通り48時間、僕とずっと一緒にいて、街を案内してくれた」

「お互い自転車に乗るのが好きだと分かったので、1日中2人で自転車に乗って過ごした。約50ドル(約5500円)で、とても思い出深い体験になった」

(英語記事 Airbnb boss reveals plans to crack Asia market