自衛隊はPAC3を東北地方に配備したが、その時、公表した対処方針がいけなかった。「日本の領土に落下する様であれば迎撃するが、米国に向かって飛んで行く場合は迎撃しない」。これに米国が激怒したことは言うまでもない。4月5日に発射された際には、米軍は一切その情報を日本に伝達しなかった。日米の信頼関係が損なわれ、日米同盟は情報通信上、崩壊したのである。

 実はこの対処方針を公表したのには、二つの理由があった。一つは、米国に向かう弾道ミサイルを日本が迎撃するのは、日本が米国を守る行為であり日本の集団的自衛権の行使に他ならない。2009年当時、日本の集団的自衛権の行使は憲法上禁止されているとの政府見解がなされており、憲法上、こうした対処方針にならざるを得なかったのである。

 この点については2014年に安倍総理が、集団的自衛権の行使が一部可能になるように政府見解を改め、翌年には平和安全法制が制定されたおかげで今般、小野寺防衛相は国会で、グアム島の米軍基地を攻撃する北朝鮮の弾道ミサイルを法的には迎撃可能とする見解を示せた。

 これは大きな進歩だと言っていい。トランプ大統領が「日本を100%守る」と明言できたのも、この新見解があればこそであり、グアム島の住民も「米軍だけでなく日本もグアム島を守ってくれる」と喜んだと言うから、日米の信頼関係の維持に明確に貢献したのである。

 だが、もう一つの理由は、現在に至っても解決されていない。実の所、日本のPAC3は米国に向かう弾道ミサイルを迎撃する能力がないのである。

 先に説明したようにPAC3は終末段階において低高度で迎撃するミサイルであり、日本を飛び越えて米国に向かう北朝鮮の弾道ミサイルは、日本上空では中間段階つまり大気圏外の高高度を飛行するため、日本のPAC3では迎撃できないのである。

 ちなみに海上自衛隊のイージス艦に装備されている迎撃ミサイル「SM3」は日本に着弾する弾道ミサイルを中間段階である日本海で迎撃するためのものである。つまり、2009年当時は法的にも物理的にも不可能であった迎撃が現在、少なくとも法的には可能になっただけで、物理的には相変わらず不可能なのである。小野寺防衛相の見解はリップサービスに過ぎない訳だが、そうであれば当然、トランプ大統領の発言もまたリップサービスなのである。
海上自衛隊のイージス艦「ちょうかい」(海自提供)
海上自衛隊のイージス艦「ちょうかい」(海自提供)
 トランプ大統領の本音は、むしろ5月26日の日米首脳会談で安倍総理に言ったとされる、「米軍が北朝鮮を攻撃した場合、日本は軍事的に何ができると言うのか?」といういらだちに満ちた発言にあるとみてよい。

 北朝鮮が7月28日に発射したICBM「火星14号」にしろ、今回の中距離弾道ミサイル「火星12号」にしろ、完成すれば米国領を射程に入れる事は確実だ。完成は来年以降と見られるが、完成すれば米国市民の大量殺戮を避けるために、米国は北朝鮮の核兵器を承認して米軍を極東から撤退させる他なくなる。

 もし、この事態を避けたければ、年内か来年の早い時期に北朝鮮を米軍が攻撃する以外に選択肢はない。要するに米国は進むか、退くかの二者択一を迫られており、それは日本の対応次第なのだ。

 だが、日本国民はいまだにその事に気が付いていない。そこに今回の危機の本質がある。